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弱さ

 「で、俺の自己紹介は終了なのだが、お前のことはある程度知っているから、別に何もしなくていいぞ。まず鍛えるのはその腐った精神からかな。俺が言うのも変だと思うが……なぜお前は弱い。それを明確に自分で理解しなくては一歩も前に進めない」

 

 俺が陰陽師として、なぜ弱小なのか。まず才能が無い。この言葉を言うと飛鳥がひどく怒るのだが、紛れもない事実だ。俺は力を付与して貰うというかたちで陰陽師になった、よつばや追継のように初めからの一族の贈り物みたいな都合の良い代物はない。だが、飛鳥のように、潜在能力が高い訳でもない。不器用だし、判断力とか鈍いし。何より妖怪を駒にして戦うのに抵抗を持っていたのが何よりの致命的だった。


 陰陽師が妖怪を道具として使用する風習には裏側の事情なるものが存在する。妖怪は以前から人間を襲う生き物だった。脅し、騙し、惑わせ、怖がらせ、時には命まで奪ってきた。それは全て悪霊の仕業ではないか、と考える俺がいるが、歴史の刻んできた闇は、永久に不明なままだ。妖怪は悪しき存在。もうそう感じた人間はそう簡単に引き返せない。だからこんな平成の今でも風習になんら遜色は無いのだ。そこに立ち向かっているのがまさに百鬼夜行なのだが。

 

 「俺達を友と思ってくれるのは嬉しい。だがなぁ、俺達に全く汚点がないのか、と言われればそうじゃねーよ。歴史で考えれば、俺達のしてきたことは一生奴隷なんて罰に匹敵するのかもしれない。だけどお前達だってそうだろ、本当の善人がこの日本に何人いる? 人間だって、殺人、強盗、暴力、戦争。俺達に負けないくらい汚点があるじゃねーか。だがなぁ、大事なのはそこじゃねーんだ。誰が悪かったとか、何が悪かったとか、議題はそこじゃねーんだよ、橇引行弓。大事なのは、何の為に戦うかだ。俺達妖怪は罪を償う為に戦っているんじゃない。守りたいなにかが俺達にもそれぞれにもあるんだよ」


 俺は勘違いをして生きていたつもりはない。友達を利用している感覚が嫌だった。俺はあいつと戦う為に友達になったんじゃない。ただ一緒に笑いたくて、傍にいて欲しくて、あの書類の山に囲まれながら、追継に上司の愚痴を聞いて貰い、式神が隣で酒飲みながら笑ってくれて、仕事の量が多すぎて泣きたくなって、正座で足が痛くて、止めたくて、逃げ出したくて、めんどくさくて。それでもそんなあの空間にいたかったから。


 「いつまで子供なんだよ、俺は……」


 不意にそう呟いた、何となく分かっていた。いつかこの場所がなくなるって、いつまでも特に何もしない訳にはいかないって。


 「失って何年経つだろうな、この場所を」


 いるはずの仲間がいないんだ、いるはずの友がいないんだ。


 「陰陽師が戦う理由は一般人を守る為だ。だがお前にはもうそんな押し付けがましいことは期待していない」


 先生がゆっくりと俺の方に近づいてきて、肩に手を乗せてくれた。


 「ただお前だって守らなきゃいけないものがある。お前はもう守って貰う子供じゃない。幸せは自分で掴むものだ。いい加減腐ったニート根性を改めろ!! 今からでも遅くねーよ。自分の口で言ってみろ。お前は何の為に戦う?」


 「百鬼夜行から友と仲間を奪い返す為だ!!」

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