運命
烏天狗は殺されるかもしれない、俺は自分の体を奪い返せないだろう。奴のあばかれたくなかったでろう真実を暴露しただけだ、完全勝利ではない。だが、俺の心中には、何故か分からないが少しの安堵があった。
友達がいなくなる、大切な人が死ぬ。それは分かる。涙を流せない、俺には奴が妖力をあのまま吸収されて消えてしまう姿を見ているしかない。
でも烏天狗の中には何が残っただろうか。奴は長年生きて来て、あらゆる戦場に姿を現しては、価値のあるものを強奪し得てきた。そんな自分を嫌っていたし、貧弱な連中も嫌いだったし、そこから手に入れた物に価値を感じていなかった。
天狗の運命を押し付けられて、人間からも妖怪からも嫌われた。奴が妖怪として強すぎたからだ、あまりに度を逸した強さは、評価されなく偏に危険としか思われない。
だが、俺が奴を好きだった理由は奴が紛れも無く強者だったからだ。いや、正確には奴の性格や態度や心理が好きだった。本当は仲良くしないのに、それをプライドが邪魔をする。だから友達が出来ない。
「だからこそ、ワシのたった一人の友達には価値がある。ワシの命なんぞよりも」
俺の命をを救う事は、奴の勝利だ。例えこの状況がどうであれ、この後に俺に対しどんな深い傷が残ろうとも、烏天狗の勝利に変わりは無い。
「そうだよな、烏天狗。俺達のお別れに『敗北』なんかありえない。泣きじゃくって、悲しみを分かち合うんじゃない。俺達の絆はそんな下らない三文芝居じゃ示せない」
「ワシらに最後などない。しばしのお別れがあるだけじゃ」
俺は特に何もしない陰陽師だ、陰陽師として存在せず、陰陽師らしく振る舞わず、陰陽師として生きている訳じゃない。友達がいるんだ、仲間がいるんだ、守りたい人がいるんだ、約束があるんだ。いつだって俺は任務ではない、陰陽師としての仕事でもない、『特に何もしない陰陽師』として戦ってきた。
今からも、これからも。
「…………何なんだよ、お前達……。感動のさよならのシーンに……何でそんな言葉が言えるんだよ!! 無様に泣き叫べよ!! 喉を嗄らすまで発狂しろよ!! 面白くないじゃないか!!」
だからお前は所詮は悪霊止まりなんだよ、柵野栄助。真の絆という物がまるで分かっていない。悲しみから何も産めない、何も学ばない、何も理解しない。いつまでも悲劇のヒロインで、一方的な被害者で、可哀想な立場の存在だと思っている。だからお前の世界には、光が差し込まない。
「「柵野栄助!! 首を洗って待っていろ!! 必ずお前を成敗してやる!!」」
その言葉が重なった時に、烏天狗は……消滅した。