筒抜
これだけ大声を出したのに、この俺の持てる最大限の絶叫は烏天狗には届かない。それでも柵野栄助には聞こえているとは思うのだが、奴すら反応が無い。俺の大声に苛立ちを発して、俺に取られていれば烏天狗が逃げられる隙を作れると思ったのだか。そう簡単にはいかなかったようだ。
ここにきてまた、見積もりの甘さという奴だろうか。それにしても奴はどうして俺の言葉に反応を示さない……、俺がいない奴とでも思われているのだろうか。
「止めろって言っているだろうが。殺すな、殺さないでくれ!!」
返事は無い、烏天狗に対しては意味の無い事をべらべらと叫んで、逐一喋る言葉に揚げ足を取っていたのに。俺の喋る言葉の方が、貫録が無くて馬鹿みたいで、突っかかれる個所が多いと思うのだが。
「っく、そ、。……聞こえるか、行弓……」
…………烏天狗?
「おお、まさか命乞いとかじゃないですよねぇ。そんな事されても困るなぁ。せめて最後のプライドくらい守って死んで欲しいんだけど」
「違う、物の怪め。貴様に話し掛けているのではないわ」
じゃあやっぱり話掛けているのは俺の方か。烏天狗が最後の力を振り絞って俺にダイニングメッセージを伝えようとしている。今の状態の俺に何を伝えたところで……。そもそも俺に伝えられるかどうか、分からないと思うのだが。いや、逆の立場なら俺も叫んでいる。どうせ殺されて、伝わるかどっちか分からないならば、俺も声を張り上げるだろう。
「おいおい、また友情ごっこかよ。もう十分だろうが、不快なんだよ、そういうの。ここ数分でお前らのその訳の分からない両想いの発想を聞かされて、本当に迷惑しているんだ。大人しく黙って死んでくれよ」
「いいか、行弓。お前の体は奴に奪われた。奴の能力の性質上は自力で奪い返すのは極めて不可能に近い。だから一旦、自分の体を奪い返すのは諦めろ」
……柵野栄助の言葉を無視している。それにしても奴はメッセージとしても、遺言を残しているのではなく、俺への脱出への糸口を教えようとしている。自分の体を諦めよと言う意味はよく分からないが、奴の言葉を聞かなくては。
「いいか、奴の中にはお前の体を奪う際に、自分の体を脱ぎ捨てているはずだ。そいつを奪い返せ。それでその空間から脱出できる。その空間は妖力で構築された世界のはずだ。だから奴が妖力を回復する度に、その空間がクリアになっていくはずじゃ、だから奴の死体に意識を憑依させろ。それで、現界できるはずじゃ」
……奴の死体? その空間にそんな効果が。奴が妖力を奪う度に、そんな現象が起きるのか。それで脱出できるのか?
「…………はぁ。お前は馬鹿だろう。本人に筒抜けでそんな話するかよ、普通」




