缶詰め
奴がある事件が原因だと言ったが、俺に『妖力吸収』の能力に繋がりそうな、そんな都合の良い事件で、思いつくような話はない。事務作業が専門で缶詰めにされていた俺に、そんな能力を手に入れられる機会があっただろうか。それとも、何かしらの妖力で記憶を消されているとか。
「妖力吸収の出来るこの体が私にはまだ必要だ、この男子高校生であるこの姿でなくては、私の目的を完遂できない」
そういえば気になっていた、綾文功刀は世界征服とかいうとても分かりやすい理由を持って戦っていた、だが柵野栄助の場合はよく何を思って戦っているのか分からない。格納庫にいた時の発言から陰陽師と敵対したいという意思は分かったが。烏天狗も同様の疑問を持っていたようだ。
「貴様は本当に何を考えているのだ? 世界征服やら、人類絶滅とかか? そう言えば貴様は渡島搭吾に向かって他人が不幸になる様を見ているのが好きだと言っていたが、そんな事をするために、行弓のつまらん能力が必要なのか?」
つまらん、か……。今を思えば確かにそうかもな。あれのせいで、俺は柵野栄助から目をつけられて、こうやって利用されているのだから。
「それはイエスと答えるよ、この能力は下手をすれば格納庫の魂を全て喰らうよりも効果があるかもしれない。素晴らしい能力だよ、この私が無敵になれる為には必須の代物だ。この能力は橇引行弓が使わないことで、初めて本領を発揮する能力だからね」
俺が使わなければ? 俺が使っていた時だって、充分に重宝していたつもりだが。最近は烏天狗の膨大な妖力が手に入った為に、接近して直接触るというリスクを避けるために使わなかったが。
「なるほどな、貴様は体の中に貯蔵できる量が違うというわけだな」
「そう言う事だね~、元の体の持ち主だった彼は、中に溜めて置ける妖力が少ないという致命的な弱点があった。だから折角の奪った妖力も、時間経過と共に体の外に、自然に発散していたというわけだよ」
そんな馬鹿な、じゃああいつはそれを溜めておけるとでもいうのか。レベル3の悪霊など貯蔵できる妖力の量だの想像がつかないぞ。まさか奴は……。
「取り敢えず、当面の目的は……」
その時だった、俺の視界は一気に変わる。今まである程度の距離感を保っていたはずの烏天狗がすぐ目線の先にいたのだ。スグに奴が何をしたか分かった、テレポートか。俺の鬼神スキル鋸貝のようなランダム性の問われるのではない。これは只の高速移動だったのだろう。
「私の中の妖力を満たす事。だからあらゆる方面の生き物から妖力を頂く」