遺産
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柵野栄助はこの烏天狗の態度を見て何を考えているのだろうか。奴がレベル3の悪霊として、想像絶する生前での絶望的な死を体験し、それからどんな体験をして、今この場に立っているのだろうか。
それについて考えても、そう簡単に結論はでないだろう。奴の能力は『憑依』。何者かに意識を寄生している。それなら奴の本体はどこだ? 俺は奴の本体の姿という物を実は知っている。
奴は桜色の着物を着ていて、幽霊のように長い黒髪で、全身が傷だらけであり、何となく死体のような感じがする。奴のあの姿が本当の柵野栄助だ。奴と出会ったのは、相良の業である鬼神スキル『畳返』の技を浴びた時である。理事長は相良の持つあの空間に柵野栄助を封印していたのだ。
なら奴は今、あの姿はどこにいる?
「全く嫌な気分だなぁ。君は何も分かっていない、君のその友達とやらが、どれほどの希少価値を持っているのかを。この姿は百鬼夜行への仲間意識での『楯』なんかじゃないんだよ。恐らくこの個体は……」
「何を言っている? 希少価値だと。今まで奴が陰陽師機関にどれだけ役立たず扱いされて生きてきたと思っている。奴は体の中に溜めて置ける妖力の量は少ない、一瞬だけ爆発できるだけで、それだけじゃ。ワシが傍にいながら、実践の仕事を任せられず、事務作業の為に部屋に閉じ込められていたくらいじゃ。そんな奴に希少価値などあるまい」
烏天狗、奴から俺を救い出す為の行動なのは分かるのだが、俺を馬鹿だって言っているような物じゃないだろうか。また過去のトラウマが蘇ったのだが。
「それがあるんだ、実はね。世界には世にも不思議な現象が起きる物なんだよ。だってさぁ、接触するだけで他人の妖力を吸収するなんて、妖怪でも、陰陽師でも、悪霊だって不可能な芸当だよ、そんな真似。聞いた事がないだろう。これはねぇ、あるちょっと過去の歴史の葬られた奴の『遺産』でねぇ。これを何故、橇引行弓が所持する破目になっているのか、までは知らないけど」
妖力吸収……、俺が確か飛鳥と練習試合をした時に、一反木綿に体を縛られて動けなくなった時に、無理矢理にもがき苦しんでいたらできた事だ。細かい法則なんか知らなかったのだが、確かに今を思えば不自然である。俺の固有能力というには、不可解すぎる。
それにしても……遺産? 遺産とは、何の話だ?
「烏天狗、君の唯一の友達は巻き込まれたんだよ、ある奇怪な事件に。既にもう解決したであろう、関係者の全てが『終った事』だと思っている、その端末の不始末を彼は妖力の中にはめ込んでいたのさ」