余興
取り敢えず、まだ俺へ意識が戻る事は無かった。だが、俺への被害は甚大である。今の俺の体の所有者である奴には痛みが跳ね返っていると思うのだが、どうだろうか。
「栄助様ぁ~、栄助様ぁ~」
取り巻きの連中が駆け寄ってきた、特に久留間の方は、鳴き声を挙げながらとても悲惨そうな顔をして。面来染部は取り乱しているようには見えないが、顔は真剣そのものだ。
「大丈夫、大丈夫。レベル3の悪霊である私に武力など無意味だぞ。体の再生なんて時間の問題だ。全く油断をしてしまったねぇ、アホを見下す癖がまだ治らない。一度、緑画学園の理事長とやらに殺されかけて、半年も封印されたばっかりだというのに。私もいい加減に反省と進化が必要かな」
こいつは何を言っているのだ?
「栄助様、もうこれ以上の余興は宜しいのでは? あの烏天狗は危険対象です。今ここで処刑する事に賛成です。ですが、奴は天空の王者です。我々に戦闘で勝てる要素は無いかと思いますが、万が一に逃げられる可能性があります。早急な殺害が必要かと」
「そうです、あんな奴の攻撃は僕がいれば、問題無く『防御』出来ますよ。あんな奴はレベル3の悪霊全員で奴に裁きの鉄槌を下しましょう」
こいつらどっか行っていればいいだろうに、ただでさえ柵野栄助だけでも手におえないのに、残り二体の『防御』と『回避』が加わってしまったら本当に逃げる事すら叶わないかもしれない。
烏天狗が空から地上へ戻って来た、ここで逃げていてくれれば奴の命だけは助かったのだが。やはりあいつは俺を解放する事を諦めていない。
「やはりこの程度の攻撃では駄目か」
「程度? 違うね、威力や馬力が問題じゃないんだ。妖力が続く限りは永遠に戦うレベル3の悪霊に対して、決定打にならない物理攻撃が無駄なのさ。って、また偉ぶって自分の弱点を喋っちゃったよ」
こいつ、やはり口だけで何も反省してないな、まあこちらとしてはありがたいのだが。それでも圧倒的な戦力差から生まれる自信なら、危険を否めない。本当に烏天狗には俺のことを放っておいて、逃げ出して欲しいのだが。
「貴様、いい加減に諦めて行弓を解放せんか。ワシは行弓さえ無事になったならそれでいい。それからのワシと行弓の行動を指示するなら、従ってもいい。だが、奴はただの高校生じゃ、人質を取られ無理矢理に百鬼夜行という機関に従わされていて、利用されていた側の被害者じゃ。それに……奴は、我々のような妖怪の味方じゃ。貴様が奴を重要視しているのは分かる。だからこそ、だから…………取引だ」