二面性
この状況で危険なのはどっちだろううか。後ろから烏天狗が俺を掴んでいる状況だが、これは……。
「放せ!! 烏天狗!! そいつに捕まっちゃいけない!!」
そうだ、俺には……妖力吸収があった。記憶のイメージとして蘇ったのは、牡丹燈篭と戦った時の映像だ。奴は自分の能力で俺が反撃の適わない状況を生み出し、そこから俺を圧死させようとした。この状況はあの時とよく似ている。あの時に俺はある打開策を試した。あの時には上手く機能しなかったが、烏天狗相手には……。
「橇引行弓の事を分かっているように言う割には、随分な油断だねぇ」
「この状況で何を言っている!!」
違う、烏天狗。奴の言っている事は正しい。この状況で追い詰められているのはお前だ。って、俺がここから動けない限りは、奴にメッセージは伝えられないのだが。このままじゃマズイ……烏天狗の妖力が奴に吸収されてしまう。
「頼む!! 届けよ、俺の言葉!! このままじゃ烏天狗がぁ!!」
届かない、伝わらない。このままじゃ本当に……烏天狗が……。
「老いぼれが、戦陣の勘まで失ったようだね。だが、素材だけは回収させて貰おう」
「何っ、貴様……何を!!」
遂に柵野栄助からの反撃が始まった。回収という言葉を使ったのは烏天狗が元々持つ妖力を奪うという意味で、間違いないだろう。
「貴様……まさか。行弓の妖力吸収の能力を使っているのか。まさかこんな真似を……貴様がぁ……」
「決まっているだろう、私が行弓の全てを手に入れたからだ。忘れたかい? 私は以前に綾文功刀と戦った時に、私は本来は橇引行弓の式神である火車を利用してみせただろう。それだけではない、私は橇引行弓の妖力の波長に悪霊の波長を加えて、更なる可能性である火車の武神モードを完成させてみせた。橇引行弓は長所と短所がはっきりしている突然変異の陰陽師だったからね。その短所が消え失せ、長所が増大していると考えてくれ」
あの野郎め、俺を何だと思っている。俺を超えた事なんか別に何も凄い事なんかじゃないだろう。俺は陰陽師の落ち毀れだぞ、最弱の陰陽師だと言われて何年だと思っているのだろう。でもでも、奴は確か長所と短所という単語を使っていた。
俺の二面性? という事なのか?
「ははは、これで分かったかい? 君はもっと冷静であるべきだった。頑張っていた事は見ていて分かったが、やはり心のどこかで平常心を失っていたようだね。木の葉の中で不意打ち作戦で精神力が尽きてしまったのかな?」