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村正

 しばらく沈黙が続いた。傍には部長に憑依した先生の他に、内の流派の式神が何体もいたが、誰一人として口を開こうとせず、ただ黙って下を向いていた。ここにいるのは俺と部長を除き、皆式神だ。自分たちがいつ襲われてもおかしくない。しかし、今の契約している陰陽師と縁を切ることが出来て、また自由の身に戻れたとしたら、魅力が無いとは言えないだろう。何が正しい選択なのかなんて分かる訳がない。これは難しい問題だ。


 「まっ、俺が鍛えたら腰の抜けたお前でも、ましにはなるだろう。何せ俺はお前みたいな、気合いのない若者を鍛えるのが、大好きだからな」


 そういえば、妖力なんてない一般人に憑依出来たりとか、鞘に封印効果があるとか、先生はただの妖刀には思えないのだが。


 「そもそもなぁ、俺は別に百鬼夜行に襲われたって、そんだけの理由でお前の担当に抜擢された訳じゃないんだ。これでも俺は結構有名な妖怪だったんだぜ」


 確かに、俺が妖怪と親近感を持っている陰陽師だと知っていたとしても、初対面からこんなにもどうどうと、偉そうに会話してきた妖怪は二人目だ。陰陽師だと聞いたら妖怪は基本的に怖がる。それをしないってことは、それなりの実力のある妖怪なのだろう。因みに一人目とは、俺の最初の式神である、今は振払追継の元にいる奴だ。


 「自己紹介がまだだったなあ。よし、名乗らせて貰おう。俺の正式名称は『籠釣瓶かごつるべ』。かの吉原百万人切りの主人公。通称、村正だぜ。よろしく」


 「めちゃくちゃ悪名高いな、おい」


 「ちょい待ち。確かに俺の名前は有名だ。ただしかし、俺は一人じゃない」


 部長の声で俺とか言われると、かなり違和感があるのだが。

 ベースは明治時代の歌舞伎、籠釣瓶花街酔醒かごつるべさとのえいざめ。その歌舞伎は、一人の女に振られた男が気を狂わせ、村正と呼ばれる妖刀で、吉原の女性を次々に殺していく、悲劇である。しかし、それは無数にある村正のブランドの一刀が起こした事件である。村正という剣は固有名詞では使われない。戦国時代に伊勢桑名を中心に活動していた刀鍛冶の名前を村正といい、そこから三代にかけて村正一族が作った刀を村正と呼ぶ。

 つまり数自体はかなりある、妖刀だ。弟作の名で有名な『蜻蛉切り』や『妙法村正』なんて物も存在する。

  

 「俺はその弟剣の中の一本なのだ、兄貴はとっくに成仏したよ」


 つまりあちこちで活躍した兄弟の恩恵をちゃっかし頂いた訳か。


 「だが俺だって式神だ、プライドはある。一般人を守る為に毎日戦ってきた誇り高き式神の一刀だ。今回の百鬼夜行なる連中が何を企んでいるか知らないが、あいつ等が俺の仕事仲間を傷つけようとするのは、許せない。それにお前が連中と戦うっていう意思があるのなら、全力でサポートするのが大人の務めだ。まあお前にはその意思ってのがどうも足らないようだが」

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