複数
何を思えば奴は助かるだろうか、俺に今から出来る事はなんだろうか。何をどうしたら、烏天狗は助かるだろうか。
「無理だ、どう考えても助からねぇ。どう考えても助からねェ。時間の問題に決まっている!!」
今までの俺にはどんなピンチでも、まだ行動権くらいはあった。それなりに痛み着けられてきた最近だったが、ここまで動けない状態は無かったと思う。この場で俺が出来る事は悩む事だけ、俺にはもう何も出来ない。
「さて、何を言っても無駄なようだから、少し動きますか。さて……」
次の瞬間だった、遂に痺れを切らしたのか烏天狗が反撃に出た。移動しようとした俺の右足を烏天狗の手が掴む。奴が隠れていたのは、地面の中じゃない。木の葉の中だ。それを複数回に渡って、木の葉から木の葉へ移動を繰りかえす事によって、このポジションまで移動してきたのだ。
「おお、そんな所にいたの?」
「……屑が。行弓を返せ……。返せ!!」
行動は冷静であったが、別に何もかもが冷め切っていた訳ではないのではない。精神はかなり揺れていたようだ。いつものイライラとは違う、本気で怒り狂っている。色々と気に食わない事をしているのだろう、無理も無い。
烏天狗は行動を開始した。俺の足を離さないまま、上空へ打ち上げる。烏天狗は柵野栄助とタイマンで戦うつもりだ。回避能力者と防御能力者を抱えたまま戦う状況はあまりに不利。相手が予想外の圧倒的な戦力を持っている場合は、まず部隊の分断、戦力の分散だ。利にかなった最善策だと思う。
問題があるとすれば、他のアシストが無いにしても、柵野栄助に勝てるかという話である。ここまで隠れて様子を伺い、上手く掴み取ったチャンスだが、果たしてそのチャンスを持ってしても対等の戦況になったのだろうか。
烏天狗は掴んだまま、一歩も動かない。俺の腕や下半身を上手く抑えて、身動きが取れないようにしている。空中で柔道の関節技を繰り出している感じか。俺を傷つける事に抵抗があるのか。やはり柵野栄助が俺の姿をしているというのが、烏天狗にとって一番の痛手になっている。
俺の視界に見えているのは山の上空から見える景色だ。森林をヘリコプターで上空から眺めている感じである。ただ烏天狗の姿は見えない、奴は俺を抑える為に後ろに回っているからだ。
「貴様。殺されたくなかったら、橇引行弓を解放しろ」
「えぇ、まさかこの状況に陶酔しているのかな? たかが仲間と離れたくらいで、上空に浚ったくらいで。勝ったつもりなのかな? まあいいや。君にはもう少し言いたい事があったんだ」