死戦
「そろそろ出てこないかなぁ。かくれんぼはもっと刺激的な遊びであるべきだ。こんな静けさ漂う静寂に満ちたかくれんぼなんて面白くない。隠れている側も見つけてくれない、探す側も刺激が無い。これじゃあどいつもこいつも、大人ぶって『かくれんぼを卒業』しちゃうよね」
また皮肉だ、奴はまるで世界を裏側から見つめているように、人間の行動を否定する。あらゆる観点を悪く受け取り、誰かの希望を他所で笑い、誰も聞いてないであろうはずなのに、人間を罵倒する。奴はいったい……、奴は何が原因で最強の憑依能力者になんてなったんだ?
「栄助様、栄助様。奴め、現れませんね。卑怯にも隠れて出てきませんよ。このまま我々が諦めるのを待っているのでしょうか。それとも何かしらの反撃のチャンスを狙っているとか」
「どっちも想定しているだろうが、奴の性格から概ねまだ戦意は完全に喪失はしていないだろうね。さーて、じゃあそろそろ会話を止めて本気で炙り出そうか」
あんな事を言っているが、烏天狗は動じない。例えどんな言葉を言われても反応しない。さすがは歴戦の勇者だ、相手の挑発に乗らないし、主義を優先して無謀な特攻もしない。だが、そもそも烏天狗がここまで追い詰められる状況が異常なのだ。本来ならこんなプライドを捨てた動きをする必要なんかないのだ。
「……烏天狗。お前……」
なんとなく分かる、奴がどうしてこんなに冷静でいられるのか。奴が最強クラスの妖怪としてプライドが高い、他の妖怪を支配している人間だろうが、同じ生物であり同じ階級である妖怪だろうが、いかに最強の悪霊だろうが。決して奴が『隠れる』なんて真似までして戦うはずがない。
奴の本来なら、戦士として見っとも無い姿を見せまいと、ここを死戦とし戦うだろう。逃げるという選択肢が無い以上は、それ以外の選択肢が見当たらない。奴は逃げているのではない、戦闘意欲は現在もあるだろう。だが奴は死のうとはしてない。まるで何とかして、無様な醜態を晒しても、どんなに汚い手を使っても勝ちにいっている。
「俺の為か……、まさか」
奴はこの戦いに挑む前に、肩に何かを背負っている。俺の存在なのか、俺が世界からいなくなっていない事が分かってたから、まだ奴は俺を救う事を諦めていない。だから死のうとはしていないのだ。俺を無事に逃がすまでは、……死ねない。そう思っているのか……馬鹿野郎。
俺は綾文功刀との戦いで本当なら死んでいたのだ、それか悪霊になっていたはずだ。それを奇跡とか偶然で意識だけが、まだ消滅していないだけだ。こんな死人同然の主失格の俺なんか捨てていればいいのに。
そしたら最後のプライドだけは守れるのに……。