解放
「日本中ってまさか日本中の流派が襲われているんですか」
「あぁ、決まって手口は突然現れては陰陽師を襲い、式神を強奪する。どうも原理は分からないが、式神契約が破棄されて所有権が消滅するらしい。それで式神との遠距離操作も出来ずに奴らの潜伏先も割り出せないってことだよ。何より目的が分からない。何だって、他人の陰陽師の式神を奪うんだ。そんなに一人で式神を持ったって、力が釣り合わなくて、扱いきれる訳がないのに」
いや、目的ははっきりしている。妖怪の解放。奴隷風習の撤廃。正しい陰陽師のあり方となる。ざっとこんなもんだろう。仮に他の陰陽師と式神の契約を解除する手段を持っていたとしても、別に新しい式神が欲しくてやっている訳ではなく、ただ式神を妖怪として解放する為に襲っている。これなら納得出来る道理だ。
「おい、お前もメンバーの一人に出会ったらしいな。今はどんな情報でも欲しい。詳しく聞かせろ」
本音を言わせて貰うと、言いたくない。だって振払追継は俺の友達だったから。それは二代目になろうとも、簡単に割り切れるものではない。本当は友達を売る真似なんてしたくないが。
「振払追継の孫娘らしいです。なんの保障もありませんが」
言うしかない。流石に今回は事件の規模が大きすぎる。そして何より、あの追継に誰かを襲うなんて真似はして欲しくない。心の中でチクったことに対し、こんなことを言い訳にした。
「振払追継か。変化のスペシャリスト。確かにな、孫娘の実力は知らないが、あの人が相手ならその辺の陰陽師が何人束になったって敵わないな」
一代目追継の強さは俺も知っている。確かにあの人は強い、その強さを維持する為に犠牲にしてきた物の多さが違う。自分の存在すらも犠牲にしていたのだから。
「だが、そんなエリート軍団が、何でお前みたいな雑魚の極みみたいな男を欲しがったんだ? いらないだろ、お前なんて」
言いたい内容は理解出来るが、何か発言に棘を感じる。
「連中が雑魚の極みでも欲しがる理由があるんですよ。俺が推測するに奴らの強さは単純に式神事体の強さにあります。奴らは本来捕えるのが極めて不可能な大妖怪と式神契約しているんじゃないでしょうか」
「おいおい、待てよ。妖怪のスペックってのは、高けりゃ高いほど、人間を嫌い習性が強い。だから捕えられない。それを無理やり捕まえているってか。それとお前が欲しいのと、式神を奪うのと何が関係あるんだよ」
「先生、妖怪同士が結束心が高いのは知ってますね」
「まあな、俺も妖怪だし。今は式神だけど」
「だから百鬼夜行は大妖怪にこう持ち掛けたんです。仲間の妖怪を解放する戦いに協力してくれ、と。今の陰陽師の基本理念を利用して交渉したんです」