睡眠
そうこう考えていると、ついに俺の視界に光が入った。何が見えるかというと、……良く分からない。森の中なのだろうか、視界からは生い茂る木々が見える。と、視界に面来染部の姿が映った。どうやらこいつが寝ている間はずっと一緒に行動していたのだな。
悪霊も睡眠を取るのだなって感心したい光景なのだが、こいつの趣味というか道楽なだけかもしれないが。
「おはようございます。役者は揃いましたか?」
「すみません、栄助様が監禁されている間に仲間が多く削られました。もう今残っているのは、私達を含めて三人なのです。でも、彼はちゃんと栄助様の復活を祝いに来てくれましたよ」
なんか、勝手に話が進んでいるのだが。まあ俺の存在なんて露ほども気にしてないようだ。面来染部においては、俺がこの話を盗み聞きしている事すら知らないのだろうか。何で、柵野栄助は俺について喋らない。俺が肉体の支配権を奪え返せないという自信の現れなのか?
「へぇ、それは酷い。やっぱり消しているのは……音無晴香ちゃんだよね~。つーか、あいつマジで化け物だろ。人間と陰陽師と悪霊を同時に熟すって私より化け物だぞ」
「えぇ、私もそう思います。彼女の駆除活動から逃れたのは……レベル3の悪霊の中でも、封印されていた栄助様と、回避能力の私。あと最強の『絶対防御能力者』の久留間点滅さん。あとは例外として、独立行動をしていた綾文功刀さんだけですね」
「生き残ったのあいつかよ」
久留間点滅、そいつも悪霊なのか。実質あとはここに集まる三人を倒せばいいって訳か……。いや、あと一人いる。その音無晴香って野郎だ。ちょくちょく耳にするから気になってはいたんだ、どうやらそいつは悪霊でありながら、同じ悪霊を狩っていたらしい。仲間同士で潰しあいとは……俺としてはあんまりいい気分ではないな。
「全くあの人は……それで? 久留間点滅は? どこにいったの?」
「あぁ。ちょっと栄助様が目覚めるのが遅かったので、ランニングしてくるって言って飛び出しちゃいました。直ぐに戻るとは言ってましたが、もう二時間は経ちますね」
また変な野郎だよ、レベル3の悪霊って奴は。ランニングってダイエットでもしたいのかよ。そんな事を悪霊がしても疲れるだけだろうに。体の形状なんて気にする連中じゃない、とか思うのだが。そんな目的じゃないのかも知れない、ランニングと聞いてダイエットのためだと思う俺が偏見だ。
「あっ、帰ってきましたよ。本当だ、相変わらず元気だねぇ。どこからあのパワーが漲るのやら」
そう言って顔を傾けた俺の視線に飛び込んできたのは……。とっても嬉しそうに、元気な顔をして全力疾走している中学生くらいの男の子だった。奴が久留間点滅か、思ったよりも人間っぽいな。妖力の波長がこの姿では感じる事ができないから、分からないけど。
どうも悲壮感が無いというか、元気いっぱいというか。なんか『愛すべき馬鹿』ってイメージが見える。あんなに楽しそうに駆ける奴は久し振りに見たぞ。まあ、人間の出せるスピードじゃないけど。巻き上がっている砂埃が爆風に見えるくらいだ。
なんか行弓君が、『視界しか共有していない』とか言っていますが
ちゃんと聴覚も共有しております。
私の把握ミスです、申し訳ありません。