凱旋
史上最強の悪霊だと……俺が最初に会った時のイメージとは大分違うな。あの砕けた口調で、やる気のない態度で、諦めたオーラで。俺と会った時だって、俺を陰陽師だと分かっておきながら、まるで友達かのように接しやがった。
敵である面来染部の言葉を信じるのもどうかしているが、奴は柵野栄助は人間に無害だと言っていた。それに鶴見が一対一で倒せた相良十次の一人だけで、奴を封印できた、つまりは奴が解放されたところで大した脅威にはならないと思っていた。
それを慢心と言われたら、言い返す言葉など一つもない。騙されていた俺が純粋に馬鹿なのだ、普段から優しい人が本当に優しいとは限らないという奴だな。
「貴様……、何をする気だ」
「えっと……、そうだなぁ。折角、『新星!! 橇引行弓!!』が爆誕したのだから、ここは景気良く……陰陽師機関破壊活動とか、最強悪霊軍団結成とか、全世界絶望大実験とか?」
駄目だ、洒落になってない。こいつは本気で今まで言った言葉を決行する気だ。しかも俺の体を使ってだよ、こいつは『橇引行弓』を悪の大元凶にする気なのだ。止めてよ、もう二度と地元に帰れなくなるってば。
「いや~、い~ね~。高校生の肉体ねぇ。何をしても輝いて見えるだろう。若さの特権て奴だねぇ。世界を聖剣で救おうが、魔術で結社を作ろうが、スポーツで頂点を目指そうが、誰もが青春という言葉で誰もが注目する。高校生は何をやっても楽しいからねぇ」
そのテンションで『陰陽師機関への宣戦布告』も止めて下さい。しかも俺の肉体で……、まるで俺が世界の破壊者みたいだから。
「……ふざけるな、貴様……。お前さえいなければ。お前を倒さなくては……世界が……」
「あーあーあーあー、どこぞの理事長さん、止めようよ、そういうの。正義のヒーローなんて生き物との手に汗握る大バトルを期待するなんて、レベル3から無様に降格した綾文功刀の馬鹿くらいだよ。私は楽して誰かを不幸にしたいの。自分の手を煩わせずして楽しみたいし、できるだけ駒を動かして遊びたいの、コマンダーでいたいの、私は」
これが全て俺の声で発している訳だから……、俺への精神的なダメージが大きいのである。つーか、さっきも綾文功刀を殺した理由が只の『横取り』とか言っていたな。レベル3の悪霊同士は仲間じゃないのかよ……、ここまで消えた悪霊を馬鹿にすることないじゃないか。
その言葉からもう理事長も追継も一言も声を発しなくなった。麒麟がいるならこいつを倒せるのではないか、と思うのだが……。理事長が突発に攻撃しないという事は、そう簡単に最悪の悪霊は倒せないという事だろうか。
「じゃあ私は眠くなってきたから……帰るね。じゃあ橇引行弓は百鬼夜行を脱退しますね。あと、陰陽師も止めます。人間も止めるねー。あっ、でも高校生は止めないよー」
すると一瞬で俺の視界が消えた、……のではなく俺が瞬間移動したのだった。追継も理事長も瞬間的に抜き去り、格納庫の出口へと脱出したのだ。いや、脱出なんて気は奴にはないんだろうけど。
「つー訳で、私の凱旋だぜ。震えて眠れ、人間ども」