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 痛いのは嫌い、怖いのも嫌い。私を愛すと言った夫は、私に暴力を振るった。毎日のように怒声を浴びせ、暴れ回り、威張り散らした。私はそれを子供を守りながら、死ぬまで続けた。


 私は死んだ、娘を庇って楯になり、夫の振り降ろした一撃を頭に受けた。その後に体制を崩して、転倒。そこでまた私は頭に何かをぶつけた。それが何だったかは、私にだって分からない。


 「なんだこれ……」


 俺に悪霊を目の前にして、出来る事なんか説得くらいしかない。反撃できる手段なんか俺の手元に残ってなんかいないんだ。絶望ならさっき味わった、だからこそ俺の頭は未だクリアではっきりしている、だから考えればまだ何か作戦を思いつくかもしれないが、それにしては時間が無さすぎる。だって奴は俺の目の前にいる、そして俺をゆったりと睨み着け、ロックオンされているのだから。


 「お兄さん、早くこちらへ来てください。今なら走れば逃げられます。ここまで来てください」


 「出来るか!! 俺は逃げられない!! 逃げる事は俺の主義に反する!!」


 「そんな事を言っている場合ですか!!」

 

 分かっているさ、もう俺に出来る事なんかないさ。死ぬしかない……、とでも思うと思ったか!! 俺は逃げないし、負けないし、死なない。だって……ここで逃げたら約束を破る事になる、飛鳥との約束を放り出すわけにはいかない。


 それにここで逃げたら、あまりに綾文功刀が浮かばれない。


 「陰陽師の俺として、奴を助ける事は出来ない。だからせめて、奴を倒す事に罪悪感がある俺が倒す。こいつを悪霊と思わないで、人間として……あんたを可哀想な人間として戦える俺が、あんたを一人の人間と思える俺が倒す!! そうじゃなきゃ、あまりに綾文功刀が浮かばれないんだよ!!」


 綾文功刀の本当の望みは世界的な侵略者でも、誰かを虐げる事でもない、奴はそれをきっぱり拒否していた。俺にはそうしか思えない。奴は自分が苦しんで生きてきたから、関係ない誰かに仕返ししたいなんて考えるのではなく、自分と同じ思いをして欲しくないと思っていた。奴は復讐心に打ち勝っていなのだ。だから……。


 「俺が綾文功刀の意思を受け継ぐ。悪霊のお前に誰一人も傷つけさせるもんか。俺が相手だ、悪霊!!」


 その言葉に意味が伝わったとは思えないが、俺が交戦を決意した事は伝わったらしい。奴は先ほどまでとは段違いのスピードで、俺の胸ぐらを掴んだ。なるほど、本当にレベル2に成り下がってしまったようだな。意識も狡猾さも、頭に無意識にかけていたブレーキも消えて無くなっている。これじゃただの殺人マシーン。骸人形に過ぎない。ただのそこらの悪霊と同じだ。

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