先生
「どうぞこちらへ」
そう言って案内して貰ったのは、昔俺が使っていた客間かつ雑用場じゃないか。昔俺はここで、書類の点検や、構成員全員分のお茶の用意なんかをしていた。この部屋でたった一人でいることも少なくなく、朝から晩まで働かされた。しかも御上の式神が見張りで着いていて逃げ出すことも出来ない。戦闘だけが陰陽師のお勤めだと思って貰ったら困るのだ。
今でもそんなに変わっていない。書類の山、扇風機、木製の綺麗な卓袱台。悪霊退散と書かれた習字など。
「行弓様、少々お待ちください。先生を御呼びします」
さて、どんな鬼教官が俺の腐った根性を叩き直して下さるのか、怖くてたまらないぜ。
「行弓君、先生とは一体どなたかね」
「いやぁ、すみません。それが俺にちょっとお話があるそうで。部長、俺は少し席を外します。俺のことは一切お気になさらず一人で視察してきて下さい」
「何だ、君はこの施設に来るのが初めてではないのか」
「えぇ、昔ここで無償のボランティアみたいな活動をしていましたから」
何一つ、嘘は言っていない。確かに食事はしっかり与えて貰ったが、それ以外に金なんて貰っていなかった。まあ、金を貰っていないのは天才であるが故に戦闘にまで駆り出されていた飛鳥の方も同じなのだが。
「そうか、まあ別行動しても問題ないだろう。折角、二手に別れるのだから君もしっかりゲーム制作作業に利用出来そうなネタを収集してきてくれ」
「了解しました」
恐らく俺にそんな暇は訪れないだろう。
「行弓様、先生をお持ちいたしました」
さあ、俺の大っ嫌いな修行の日々という物が始まる……え? お持ちしました?
「こちらです」
その女性の両手に抱えてあったのは、古びた日本刀のようなものだった。って、人間じゃないんかい!!
と、なんか脱力していると、突然刀が奇妙に揺れ始めた。驚愕する俺、感激する部長。すると次の瞬間部長の方にジャンプして目に見えるほどの妖力のオーラを発生させる。三十秒くらいで収まったたが、剣を抱えている部長の様子がちょっとおかしい。
「だ、大丈夫ですか部長?」
大丈夫なはずがない、この妖刀は呪いにより……部長に憑依しやがった。そしてこの一言。
「やったああああああああああ、久しぶりの女の子だああああああああああああああ」
高らかに部長の声が部屋の中に響き渡った。