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一目散

 悪霊の妖力を帯びる巨大な山椒魚の撃退には成功した、だが俺の負った代償は大きい。まずは妖力の枯渇が酷い。もう崖っぷちの妖力しか残っていない。さらに俺の体力もだいぶ磨り減った。牛頭鬼や馬頭鬼との相手もさせられていたからな。そして何よりの失敗は、両手が負傷したことである。


 「いってえ」


 先ほどの山椒魚を突き飛ばすのに俺は両手を使った、その時に全く頭の中の計算になかったのだが、奴の表皮にも悪霊の波長が残っていた。全身が凶器と化していたなんて表現は若干違う気がするが、人間が生身で触れられるものじゃなかった。


 さらに俺の手の中には烏天狗の妖力があった、本来なら俺のスペックじゃ絶対に抑えきれないレベルの代物だ。その二つを叩き合わせたのだ、俺の手が無事で済むわけがなかった。火傷のように炎症を起こし、まだ湯気らしき物が出ている。


 「けっけっけ。よく頑張ったねぇ、まさかはんさぎが倒されるなんて。ちょっとプライドにひびが割れちゃったよ。でももう……君は限界のようだね。ここでゴールテープを切れたら完璧だったみたいだけど、生憎まだ私がいる」


 ゴールテープなら切れるのだ、今の段階で格納庫に逃げ込めば、俺の命は助かるだろう。確かに悪霊となった残党との戦いのために、百鬼夜行のメンバーや緑画高校の連中が救援に来てくれる時間は早くはないだろうが、一生来ないというわけでもない。一日くらい飲まず食わずでも、死にはしないだろう。もしかしたらこの傷も治るかもしれないし。


 「だけど、まだ逃げられない。逃げる訳にはいかない」


 「そうだ、まだこちらには人質がいる」


 少しマズイ事態だ。今すぐに奴が侵略操縦機ティラヌス・コントローラーを発動させて、理事長と鶴見を操作してきた場合に俺はあの二人と戦えるだろうか。いや、不可能だ。俺はそんな仲間を切り捨てるような、そんなメンタルの強さは持っていない。それが出来るなら、俺は山椒魚を諦めて格納庫に一目散に逃げこんでいただろう。


 だが闘いの中で発覚した事がある、理事長と鶴見が奴に操られた場合に、あの二人は仮に洗脳が解けても悪霊のままだという事になる。それは……嫌だ、絶対に嫌だ。誰かが傷つくくらいだったら、俺が傷ついた方がマシだ。


 「なぁ、綾文功刀さん」


 「なんだい、橇引行弓君。そんなに悲しそうな顔をして」


 気が付いた、そもそも俺は奴に洗脳なんかされなくても、奴の手の平の上で操られていた事に。奴の能力が『操作』で、奴の手に人質がいる時点で勝負なんかついていた。俺達が出来る精一杯の抵抗なんか、奴の要求に従わない事だけだったんだ。だから、せめて。


 「お願いがあるんだ」

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