思惑
巨大化した山椒魚の妖怪なのか、綾文功刀の作り出した半身なのか。それすら知らなかった俺に、奴の文献的な弱点を思い出すとは思えない。戦っている最中に見つけ出すつもりだったが、今の俺にそんな体力と妖力がある事が前提の作戦が使えるはずがない。
「行弓ちゃん、やっぱり無理だよ。もう降参して格納庫に逃げ込んだ方がいいって。理事長と鶴見さんは諦めるしかない。元々、戦闘に敗れた時点で洗脳されていたはずなんだ。奴が大人しく要求に従うって保証もない。行弓君だけじゃもうたちうち出来るはずがない」
火車の言う通りなのかもしれない、俺の出来る事が身の丈に合わないのは分かっている。頼みの綱であった綾文功刀との一対一の戦闘も出来なくなった。もう何もかも諦めて格納庫に飛び込むのが、一番の正解だったのかもしれない。
「でも、今のお前の言葉のおかげで、一つ作戦が思いついた」
「えぇ!! 何をする気なの!! 行弓ちゃん!!」
俺は向きを変更し、真っ直ぐに格納庫の方へ方向転換した。無論、その場に逃げ込む予定はない。だが、格納庫を使えば奴を撃退できるかもしれない。
「けっけっけ、ついに諦めてギブアップかい。でも私の所に来て前を認め協力する気はないようだ。ならば仕方がないな。本気を出してもいいよ、はんざき。少しは見どころのあると思ったけど、期待外れだったようだね。そんな餓鬼を頼りにした私が間違いだった。殺してやれ」
どうやら思惑どおりに綾文功刀は俺の行動を誤解してくれたようだ。あの山椒魚の本気とやらは、予想がつく。表皮の色が白色から花模様に変わっている。今までは力を温存していたのであろう。
「行弓ちゃん!! もう無理だ!! 追いつかれる!!」
「大丈夫、間に合ったようだぜ。これから反撃だ!!」
バイクの動きを止めた。奴も途轍もない砂埃を撒き散らしながら、体に急ブレーキを掛けた。先ほどとは体から溢れる妖力のオーラが違う。先ほどまでの落着きは丸っきり無く、興奮状態であるかのようにしている。体の花弁の模様がもう全身まで回っている、これで奴の完成形だとでも言うのか。まるで古代の巻物にあった第一世代の悪霊のそのものだ。
「再生能力はそりゃ凄いさ。でもなぁ、それはお前の妖力が続く限りの話だ。何が原因で悪霊になったか知らないし、本当に可哀想だと思うけど……眠ってくれ」
怪獣のように俺の頭上から飛び掛かるように襲ってきた。爪など存在しないはずなのに、まるで手の皮が鉤爪に見えるほどの迫力だった。ただ一つ惜しかったのは、もう少し場所を考えて戦うべきだったな。
「え……、しまった!!」
ようやく綾文功刀は俺が起こした作戦に気が付いたようだ。逃げ込む為だと思い込んで目線を逸らし、戦況をよく見ていなかったお前のミスだ。