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交渉

こいつ随分と頭が良いな、いや俺が頭が悪すぎるのか。なんて悪魔みたいな事を考えやがる。特に俺達の身の安全を保障をするとか言っているあたりが気味が悪い。何となくこのやり口が面倒なのは分かる。


 「って、まあ身の安全とか言っても怖いだけだよね。じゃあ私がいかに真面目に交渉する気なのかを説明してあげるよ」


 何を言っているのかさっぱり分からない。何が『いかに真面目に』だ、自分の方が絶対的に優位な立場にいるくせに。俺達をおちょくって遊んでいるのか、御飯事おままごとでもして楽しんでいるのか。


 「何をする気だよ、悪霊!!」


 「こうします。おい、牛頭鬼、馬頭鬼。ちょっとこっちへ来い」


 ……忘れていた、そうだ。俺達はこいつではなく、あの二体と戦っていたのだった。こいつ俺達を絶望させて戦意を喪失させるつもりか、もう駄目かもしれない。俺ごときが命を懸けたところで、追継を無事に逃がすだけの時間も稼げないかもしれない。


 だがこいつは、またもや俺の考えを大幅に狂わせる行動を取りやがった。


 「……自害しろ」


 それは冷たく、小さく、さらっと、言い放った。

 それは何か? 自害って、まさか自分の手で自殺しろっていうあれか?

 操られている奴に、それを言うか? 自分の交渉のために、およそ必要ない馬鹿みたいな演出する為に、操られているとはいえ自分を守る為に戦ってくれた駒を、あんなにあっさりと?


 既に追継は綾文功刀の方に目線を向けてはいなかった。その方向に見えたのは、槍を自分の胸に当てる牛頭鬼と、斧を自分の首元に当てる馬頭鬼だった。さっきまで大声を出して喧嘩していた姿など何処にも無い。


 「おい、止めろ!! 止めるんだ!!」


 そう叫ぶのも虚しく間に合わなかった。聞いたこともないような鈍い音が俺の耳に入る。距離が遠かったので飛沫しぶきがかかりはしなかったが、目にはくっきりと見えた。鮮血が飛び散る、無残に倒れ込む二体。地獄の門番が、戦闘のために産まれてきた妖怪が、俺達が手も足も出なかった化け物が。いとも簡単に殺された。


 「いやぁ、これで私が武力に訴えない交渉をするという事が証明されましたね。えっと、でも私がそんなに戦力的に弱くなったとか考えないで下さいね。むしろあの二体を縛っていた力が回収できて、私は強くなりましたから。実は前に来た百鬼夜行の陰陽師に勝てたのも、同じ原理でね。御門城に散乱させていた私の兵を手放したんだよ。おかげでパワーは殆どが帰ってきた。これであっちは今頃、混乱しているだろうね。兵隊を失うのは痛いけど、今回は格納庫の魂を回収できることで、妥協するよ」


 妖怪は死なないとは言っても、いつ復活するか分からない、単純に無残な死体のままで仮死状態になる。だが、痛みは伴うし、苦しみと恐怖は消えない。復活できても重い傷を抱えながら生きる事になる。


 そして綾文功刀の性格が分かってきた。こいつはテトリスでいう一気にブロックを消さないタイプの奴だ、まるで一段一段を丁寧に消していくみたいな。一発当てて大儲けするよりも、少しずつ利益を奪っていくタイプの。将棋でいう『金』と『飛車』を交換するみたいな。


 だから、手に入れた手札が目の前から消えても痛くも痒くもない。馬鹿は自分の手に入れた物が少しでも無くなると、それだけで作戦を諦めてしまう。こいつは策士だ、それも結構な未来を見通せるタイプの。全体的な利益をキープするタチの悪い奴だ。


 頭の良さと方針的な残酷さが合わさった、本当の『悪』だ。

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