手作業
監視していて、奴らが動き出したら伝達する仕事か。何か随分と簡単な仕事になったな。先ほども思ったが、俺ってそんなに任務に関してあまり期待されていないのかもしれない。
それにしても落とし穴なんて原始的な。あのサイズの妖怪を叩き落とすのだから、かなり巨大な穴になるのだろう。俺は陰陽師の仕事で忙しかったので、山に行って落とし穴なんて掘った試しがないのだが、どうやって作るのだろうか。やはり手作業意外に実感がわかない。
すると、ぼさっと考え事をしている俺の後ろから爆音が聞こえた。俺の見張っている方向には、あの喧嘩している馬鹿共がいるとして。追継の野郎か、何をしているんだ、もし爆音に違和感を感じて奴らが取っ組み合い喧嘩を止めてしまったらどうするというのだ。二体が依然として殴り合いをしている光景を確認し、追継にもう少し静かになるように注意しようと振り返った。
「おい、こっちに気付かれたらどうするつもりだ」
そこには肩に狐を乗せたまま、しょぼくれている小学生がいた。なんか思いつめたような顔をしている。そして目の前には黒い焦げが出来ただけの地面が広がっていた。
「お兄さん、落とし穴ってどうやって作るのですか?」
「お前、知らなかったのかよ!!」
あんだけ冷静にスマートに罠を張るとか言っていたから、まさかやり方を知らないなんて思わなかった。
「御札の爆弾で地面を爆破すればできるかなって」
「お前、力学とか舐めてるだろ。爆弾でクレーターが出来るとかフィクションの世界だ。地道に土を掘り返さないと駄目なんだよ。爆風はそこまで都合の良い動きをするか!!」
と、小学生の女子に何を力説しているのだろう。だが、これ以上に無駄な危険性を増やす訳にはいかない。落とし穴作戦は諦めて、別の作戦を考えなければならない。
★
「けっけっけ。落とし穴なんて危険な事を考えるなぁ。縄文時代にイノシシやシカを捕獲するために使われていた趣向だよ。それは……、不可能という理由でもあるが、そんな非人道的な代物を妖怪にするなよ、妖怪をこよなく愛する百鬼夜行さん。そんな事よりあの牛と馬は何をしているのかな?」
……そいつは不意に上空から現れた。始めに気付いた理由は……影だった。何者かが俺達の上空にいる事に、奴の影で気付いたんだ。そこにいたのは、ショートカットに黒いリボン。まるで高校生のような恰好をしている、まるで人間だ。
「悪霊の波長が感じられない。でもあの声、喋り方。老婆のような笑い声。間違いない」
「う……うそです。奴はお父さんが……」
「……でもこれが現実だろ。あれは間違いなく、綾文功刀だ!!」