是非
ラリアットを浴びた馬頭鬼がゆっくり立ち上がった、首筋を手で摩っている。そりゃああれだけ助走を持ったまま、何の受け身もガードも無く直撃したら、痛いに決まっている。何せあの巨体だ、体への衝撃は測りし得ないだろう。
牛頭鬼は早速に偽物を排除するために行動を開始した、持っていた槍でラリアットした牛頭鬼を刺殺しようとする。だが、その攻撃がヒットする事は無かった。駆け抜けた牛頭鬼が擬態を解除して元に戻ったのだ。俺の予想通りだった、巻き上がる煙の中から姿を現したのは振払追継だった。
「お兄さん、私の妖狐はそこまで機動力がありません。早くバイクで私を拾って下さい」
この台詞を言い終わるまでくらいには、俺は現場に間に合っていた。スグに追継を後ろに乗っけると、あの二体から上空へ距離を取った。
「すげえな、お前。あんなサイズまで大きくなれるのかよ」
「いえ、まだ私の妖力は未発達です。だからこの程度の時間しか持ちませんでした。私の母ならもっと長時間の擬態が可能ですよ」
そりゃあ、是非一度はお会いしてみたいものだ。それにしても問題はまだ終わっていない。奴等の行動を一旦、止めれたのは良かったのだが、奴らがまた走り出したらもう俺達には手段が無い。
「おい、これからどうするんだ?」
「取り敢えずは様子を見ましょう。大丈夫です、私は何も考えずに奴等を攻撃したのではありません。奴等はスグに綾文功刀を追いに行きはしないでしょう」
何を考えているっていうんだ? 俺にはさっぱり分からないがここは追継の戦略に任せてみよう。
ようやく完全に立ち上がった牛頭鬼、ようやく俺の浮遊している角度からも奴の顔が見えたのだが、かなり苛立っているように見える。まあああも理不尽に不意打ちを食らったのだからな、平常心なんて保っていられないだろう。
だが、この後に立ちあがった馬頭鬼は信じられない行動を取る。傍にいて慌てふためいていた牛頭鬼を殴りつけたのだ。武器こそ使わなかったとはいえ、あの振り抜き方は全力だったように見える。
仲間を攻撃しただと……、仲間と分かっていなくてまだ俺達だと思って攻撃したというのか。それともワザと仲間だと分かっていた上で攻撃したのか。どちらにせよ、綾文功刀の為に行っている行動とは思えない。牛頭鬼は無様にも地面に滑るように転げた。
「何しやがんだ、テメェ!!」
「お前こそ何してんだ、そんな所で無様に突っ立ってやがって。早く俗を追わねーか!! 馬鹿野郎!!」
間違いない、追継は仲間割れを狙っていた。そしてその作戦は思いの外成功した。自分を攻撃した奴と同じ容姿が気になってチラつくのだろう。ただでさえ、あの二人は気が合わないようだしな。