噛合
「行かせるかぁぁぁ!!」
俺は一瞬にして冷静さを失った、自分の犯した失敗に対する恐怖が心に襲った。俺の仲間が危険に襲われる、綾文功刀が倒せない。それは……今まで体を張って闘ってくれている御門城へ向かった皆の頑張りが無駄になる。
「こっちを向けよ、もう逃げないから俺が相手だ!!」
俺の叫びは届かない、奴等はもう俺を追う事を目的とはしてないのだ。俺が叫んでいる間に烏天狗が複数の竜巻を叩きつけているのだが、まるで歯が立たない。ぶつかったとしても、完全に無視している。ダメージになっているのか、なっていないのかも分からない。
俺はすぐさまにUターンすると、前の二体を追い掛ける。まさか追い掛ける立場が逆転するとは思わなかった。だが、奴らを追い越して回り込めたとして、俺にそこから何が出来るだろうか。
「考えるな、どうやって足止めするかなんて後から考える。距離をつけられたら本気で諦める破目になる。頭の回転を止めちゃ駄目だ、少なくとも一匹は必ず奴等を止めるんだ」
大砲を構えて打つには時間が掛かりすぎる、だからと言って俺に烏天狗を頼らなくて真面な遠距離技は持っていない。こうなったらバイクのまま特攻するか、だがどれほどのダメージになるだろうか。でもそれ以外に思い当らない。
イメージさえ出来れば火車の変形は出来るんだ、烏天狗の妖力があれば燃料的な問題はない。だが、どうしてもイメージが出来ない、あの巨大な化け物を倒す自分の姿が浮かび上がらない。
「ちくしょう、距離が縮まらねぇ。このままじゃ……」
どうやって止める? 身近な人間を参考にしてみる、相良のように鎖で捕縛する、五百機さんのように幻覚を見せるとか、…………駄目だ。いくら考えて自分がやれる気がしない。そもそも火車と烏天狗が出来る範疇じゃない。
「行弓ちゃん、前!! 前!!」
「何だぁ!! 俺は今、奴等を食い止める方法を考えている所だ。運転なら自動モードに切り替えてくれ」
「でもあれは……二体目の牛頭鬼が向こうからやってくるよ!! 行弓ちゃん」
そうか、牛頭鬼は一匹ではなかったのか。そうか、そうか。じゃああいつもどうにかしなきゃなぁ、って……はぁ?
「何だと!! もう一匹だと!! 何が起きているんだよ!!」
ふざけるな、あの二体はピンチに陥った綾文功刀を救出するために、折り返して元いた格納庫の場所に向かっているはずだ。でも牛頭鬼や馬頭鬼がこの二体以上いるならば、慌てて引き返す必要ないじゃないか。
そもそもあのこっちへ向ってきているあの牛頭鬼は何を考えている、俺の相手など、あの二体なら十分すぎるくらいだろう。増援なんか絶対に必要ないはずだ、行動があまりにもあの二体と噛み合っていない。
困惑しているのはあの二匹もだ、いきなり自分と同じ容姿の化け物が迫ってきたら妖怪だってビビるだろう。意味不明な現象に対応できずに慌てている、走るスピードが先ほど比べて格段に遅くなった。これで追い付けそうな気がする。
そして、ついに二匹と一匹が交わった。すると格納庫側から向かって来ていた牛頭鬼が腕を振り上げて……馬頭鬼をラリアットした。馬頭鬼は無様に頭から地面に叩きつけられる。若干、吐血もしていることが確認できた。
もしやとは思ったが、間違いない。あの牛頭鬼は振払追継の変身した姿だ。