確保
それからしばらく時間が経った、というのは相対性理論だろうが俺はそれなりに時間を稼いだつもりだった。そろそろ振り返ってみてもいいんじゃないか、って思い後ろを向いた瞬間に、恐怖心に襲われる。
奴等は俺の方を睨み着けると、足を止めた。たかがこの程度の距離で体力が尽きたとは思えない。
「まずい、とうとう諦めて逃げやがったのか。って逃げられたら困るんだよ、あいつ等を引き付けておくのが俺の役目なのに」
「行弓ちゃん、奴等が急に動きを止めたのは間違いなく何かある。もしかしたら他の三人が綾文功刀への攻撃を始めて、救援するように命令を出したのかもしれない」
俺の役目はこいつらを抑えておく事だ、だが非力な俺では囮にはなれてもこいつらを一定時間まで捉えて置くことは出来ない。相良のような鎖などを使った捕獲技なんて俺は持っていないし、イメージも出来ない。
「ちくしょう、どちらか一匹だけでも確保しておければ。烏天狗!! あいつらに旋風をブチ当てて、こっちを見るように仕向けてくれ」
そう言いながらポケットから烏天狗の入っているお札を天に掲げる。出現と同時に、以前に俺が鶴見の提灯お化けの爆風を止めたレベルの台風を作り上げる。時間が無い、奴らが元の場所へ戻ってしまったら、作戦失敗だ。俺がここにいる意味が無い。
「手加減なんかいらねぇ。気絶させるくらいの勢いで頼む」
烏天狗からの返事は無かった、一瞬だけ顔を見たがあまり乗り気の顔をしていない。ただ俺の命令自体には従ってくれた、完成した二つの旋風が上空から二体へ向って飛んでいく。倒せるなんか思っていない、せめて俺と戦っていると思ってくれ。それだけでいい。
一瞬だった、馬頭鬼が二つの旋風を斧で二つとも一刀両断された。まるでつむじ風を薙ぎ払うかのように、豪快かつ容易く烏天狗の風を吹き飛ばした。
「うそ……だろ……」
そりゃ致命傷になんかなるとは思っていなかったのだが、それでもこの結果は予想外すぎる。尻餅でもついて地面に倒れ込ませるくらいの気持ちだったのだ。烏天狗は紛れも無く最強クラスの妖怪だいくら、馬頭鬼も負けず劣らずな存在とはいえ
こうもあっさりと大差がつく訳がない。
「なるほど、あの悪霊め。ただ意識の主導権を握っているだけではないようじゃ、自分の妖力を流し込み全く別の存在を完成させている。お前が見ているのは、牛頭鬼でも馬頭鬼でもない。ただの悪霊じゃ」
絶望の最中であった、ついに……あの二体が俺に背を向けて走り出した。