浮上
俺はもう考える事を放棄して逃げた、思いっきりアクセルを踏み込むとまっしぐらに走った。あの二体がどんな顔をしているのかとか、距離の差はどれくらいかとか、考える余裕はない。ただ追い掛けてくるのだけは分かる。今はとにかく俺の命を守らなきゃ。
「行弓ちゃん、出し惜しみはなしだ。このままじゃ追いつかれる」
「分かった、嫌な鬼ごっこだぜ」
格納庫から出て行く前に少し思い当った事がある。松林と一対一で戦った時に、俺は場所が悪くてバイクが使えなかった。だが、あの時に俺は烏天狗との連携した戦い方を編み出していなかった。
一瞬だけ妖力を爆発させる技術や、楯や壁を利用した戦術。俺はこれらを放棄していた。俺の行動の限界を見定め間違っていたと言わざる負えない。自分が弱い奴だいうレッテルが攻撃を差し押さえていた。烏天狗を幼少の頃に使いこなせなかったという自身の無さが、防御を疎かにした。
……だが、俺が出来る事は増えている。それをもっとイメージするんだ、俺には最強の相棒が二人もいる。操られている怪物に駆けっこで負けてたまるか。
「烏天狗、頼むぜ!!」
「全くあやつらが相手か、ワシでもしんどい相手だが逃げるだけならば問題あるまい。行くぞ、行弓」
そういえば烏天狗とあの二体が真面に戦ったらどうなるのだろうか。だが、俺を守りつつ戦う破目になるし、何より俺達の任務は撃墜ではなく、この場から遠のかせる事だ。余計な雑念は置いておこう。まずは最優先事項の誘導だ。
「いっけええええええええ!!」
バイクが浮遊し、空を裂き、空へ舞いあがった。烏天狗は風を自由に操れる妖怪だ、元々俺のバイクを空に浮かせるのなんか、御札の中でも可能だったのだ。これが俺の思いついた作戦である。
飛鳥から学んだ事だ、逃げる範囲は空に動けるだけでかなり増える。火車の持ち味である機動力がさらに上昇する。筋肉だけで戦う馬鹿に今の俺は捉えられない。
口喧嘩で苛立っていたのか、正常な判断が出来ていないようだ。好都合な事に馬鹿は二匹も釣り糸に掛かった。バイクで宙を舞う俺を追ってきたのは、牛頭鬼馬頭鬼のどっちともだったのである。もう綾文功刀など目にも掛けていないのに、二体の怒りの咆哮が良く響く。俺に仲間がいる事を忘れているようだ。
「やったね、行弓ちゃん。作戦成功だよ」
「あぁ、あとは三人が倒し終わるまで距離感を保つだけだ」
霊道の狭い道を二人で押し合いながら進む。あの二体は巨体だがスピードの無い。わざと林などの障害物がある場所を通り、奴らを足止めする。どちらか一方が木に引っ掛かると、もう片方も攣られて転ぶ。長い槍や斧もただの全力疾走には邪魔な存在だ。だが俺がいつ方向を変えて向かってくるか分からないので、武器を手放す訳にもいかないのだろう。