視察
陰陽師は基本的に一般人との触れ合いを極度に嫌う。理由はいつ自分が敵に襲われるか分からないからだ。もし戦闘中に一般人がまぎれていた場合、まず楯となり逃がしてやる作業が必要になる。陰陽師の最優先事項は一般の方に怪我をさせないこと。そして第二優先事項が一般人に妖怪や式神、悪霊などといった異能と呼ばれる存在を確認させないことである。だから一般人が戦場にいると、非常に面倒なのだ。
しかし、かなり稀に例外として、陰陽師が一般人に妖怪を触れ合わせようなどという、危険な事項を行うことがある。例えば、町内会の肝試し。俺達から言わせれば、あの肝試しなる忌々しい行事が至極迷惑だ。墓場ってお前ら素人が思っているより、ずっと妖怪、幽霊、化け物など多種多様に危ない生き物がいるんだぞ、それを面白半分でカップルがいちゃいちゃしながら歩きやがって、殺されたいのかって話だ。だからしゃーなく、警備の仕事をしている。うちの町くらい陰陽師の聖地となると、むしろ式神に脅し役をさせる。しっかり式神側に襲ったら殺すとたっぷり脅して。
あと、あれは実際の現場を拝見したことがないが、陰陽師が経営しているお化け屋敷が日本のどこかに存在するらしい。人々が”お化けが出たぁ”と怖がっているところ悪いが、それ式神ってオチだ。あと、歴史資料館とかの勤務で陰陽師が活躍している、やはり我々以上の専門家などいないのだから。若い女の子とかだと神社で巫女している人も多い。
日曜日の午前九時。俺は校門の前で部長と合流した。いやぁ、女性を待たせるなんて紳士として恥ずかしいな。部長と俺は私服を着ていない。なぜならこれは部活動だから。
「行弓君、準備は万全かね」
「えぇ、心以外は」
部長、本当にすまない。俺は今日、別に部長のゲーム作りのアシストをする目的で来ている訳じゃないんだ。昨日の部長の発言により、我がオカルト研究部は陰陽師の活動拠点である、内の機関経営の神社に視察に出向くことになった。勿論、部長はそんな陰陽師事務所とかいう詳しいことは知らない、ただゲームの素材が欲しいだけだからオッケーなのだが。だから地域オカルト調査と題して、表向きは集まったのが、まあそんな目的だはない。普通陰陽師は一般人との関係を持ちたがらないが、こういう部活動などの正式な文化調査の依頼には頭ごなしに断ってはいけない掟だ。俺や飛鳥のような新しい人材が作りにくくなるから。ある程度は知識を少し教え、触れ合いを持たせることも、重要なのだ。だから俺が知り合いに電話で連絡して、向かうことになったのだ。
問題は俺のスケジュールである。御存じの通り、俺にそんな暇はない。
不本意ながら修行が待っている。だから部長が文化を学んでいる間、俺は一人修行というプランだ。