朦朧
「行くぜ、牛頭鬼、馬頭鬼!!」
と、勢いよく叫んだ俺はとにかく叫んだ俺は、火車のバイクに乗っかって格納庫から飛び出した。外で何をしているのかなぁとか思っていたが、奴等はしっかりと俺達が大人しく出てくるのを待っていたらしく、出てきた瞬間に気色の悪い笑い方をした。もうなんか物凄く歪な狂気を感じた。
「鼠が這い出てきよったぞ、豚よ」
「豚じゃねぇ、馬だって言っているだろうが。顔面不細工怪物」
ん? どうしたんだ? こいつら、真面に喋れるのか?
「誰が不細工じゃ。どこから見ても見事なイケメンだろうが」
「何言ってんだ、鼻に第三の穴を開帳しているデブが。お前、本当に臭いんだよ。俺結構、鼻が利くから本気で嫌なんだよ。もうちょっと離れてくれる?」
「んだと、全身体毛に包まれた馬野郎が。お前こそ馬糞臭いわ、この清潔感の欠片も無いアホ丸出しの俗物め。ちょっと河原で洗濯されてこい」
……仲間割れ? まさか口喧嘩をしているのか?
まさか文献が間違っていたのか。どの本を読んでも牛頭鬼と馬頭鬼が仲違いをしている物語は存在しない。あの二人のコンビは最強だって噂はかなり根強い……はずだったのだが、これは驚いた。
文献は間違っていた、理由は恐らく奴等の撃退方法が記されていないのと同じだ。弱いという話を広めない為に。奴らが地獄の門番だったから、それ以外に考えられない。
それにしても、何か喧嘩のレベルが低いなぁ。なんか相手の体の部位を馬鹿にするなんて、今どきの性格の捻曲がった小学生でもしないよ。
「えっと、俺は橇引行弓と言います。お二人ってもしかしてあの綾文功刀とかいう山椒魚に操られてない感じですか?」
「おい、餓鬼め。ちょっとうるさい。取り込み中だから静かにしておいてくれ」
……すいません、ってお辞儀をしてみる。あの二体だが俺の顔など見ようともせずに一生懸命にお互いを貶し合っている。これで殴り合いとかになって二体とも共倒れになってくれればありがたいのだが。
「ええい、そこに直れ。成敗してくれる」
「ふっふっふ、馬鹿者めが。血まみれになるのは貴様だ。死ねぬ体を後悔するするが良いわ」
よしよし、どうやら本気で喧嘩が始まるらしい。お互いに槍と斧を構えてもうリアルファイト勃発する勢いだな。よしよし、勝手に戦っていろ。この隙に俺が綾文功刀を直接攻撃することが出来るぜ。
「よし、あの二体が馬鹿やっているうちに、動けない綾文功刀を退治しよう」
バイクのアクセルを踏み、奴等を放置して山椒魚の元へ向かう。奴の場所は始めから把握していたんだから、簡単に見つかった。まだ理事長の宵氷が効いている、これは俺一人でも倒せるんじゃないか。
「よっしゃあ、じゃあ標的を変えて……、っ!!」
何だ、この後ろから襲う殺気は。まるで捕食者に睨まれているような、このえげつない恐怖。手足が震え、意識が朦朧とする。まだ何もされてはいないのだ、ただ二体分の野獣の殺気を背中に感じただけだ。なのに何だ、この何とも言えない敗北感は。
「「おい、餓鬼。功刀様に何をする!!」」
やっぱり俺は認識が甘い、悪い癖がこんな絶体絶命のピンチを引き起こした。俺の馬鹿野郎、やっぱりあいつらは……操られている!!