過酷
俺の役目はあの二体のうち、少なくとも一体を引き付けてこの場から引き離す事である。これにより綾文功刀のガードが甘くなり、倒すタイミングが多くなる……はずだ。
「お兄さん、無理はしなくていいです。兎に角、一匹でも食い付いたと思ったら走って下さい。追い掛ける場合にあまりに突き放さずに、相手が諦めてしまわないように、距離感を保って逃げて下さい」
当たり前かも知れないけど、ただの逃げ切れよりも過酷なミッションだと思う。
「無事にお兄さんを犠牲に一匹を逃がしたら、今度は私がもう一匹を逃がしましょう。残り二人で素早く本体である山椒魚を倒して下さい。悪霊退散の知識の深いお父さんと憑依装甲のある鶴見さんがいれば、これだけの力を分散させている悪霊など、手惑いはすれ負けはしないでしょう」
……追継さん、お前まで。一人一殺の覚悟って奴か。人数がある程度いたことで出来た策だな。だが、追継への負担を減らす為には、俺が出来るだけ二体とも追っかけて貰うしかない。
「……追継さん。囮なら私でも……大玉提灯モードのスピードで直進に走るだけなら、逃げる役目を果たせますよ」
「駄目です。あれは視界が無くなる弱点があります。相手の妖力だけを頼りに追ってから逃げるなんて不作法です。それに機動力がなく、図体が大きいあれでは、注意を引き付けるという事が出来ません。逃げる事が目的じゃないんです、この場から排除させることが目的です。私には秘策があるので、安心して第二走者を任せて下さい」
おそらく俺を先に行かせる事にも、何か最もな理由があるのだろう。それ以前に俺がきっちり一匹を釣り上げないと、追継の出番が無くなる。
「おやぁ~、お兄さんの出番が無かったな~。さすが我が娘だよ、感服しました。父親の本意としては娘を危険に晒したくはないけどもね」
「お父さん、本当にそう思うなら、早くあの悪霊を始末して下さい。まあ、私よりも囮役として時間の長いお兄さんの方が危険ですけど」
お願いですよ、理事長!! 鶴見!! 早くケリを付けてね!! 俺も死ぬ覚悟で頑張るから。でも本当に死ぬ気はないからね!!
「じゃあ、作戦会議終了って事で、いきますか!!」
★
特攻についてだが、少し考えた。まずはどうやって注意を引き付けるかだ。俺自身は火車のバイクモードに跨るとして、俺が何かしらの威嚇をしなくては、こっちを追い掛けてくれないかもしれない。だが、俺に遠距離攻撃が出来る奴って言ったら……、思いつくのは火車の戦車モードの大砲と、烏天狗の『黒羽旋風』だ。コストと時間を考えて大砲は論外だと思っていい。
そこで今回は火車と同時に烏天狗も表に出すのだが。一つ思いついた事がある。