云々
綾文功刀は『操作』を象徴する能力を持つ悪霊である。見た目は山椒魚の姿だが、これで立派に悪霊らしい。
「けっけっけ。吾輩は侵略者だ。あらゆるものをを無差別に吸収する。私が狙うのは世界侵略、この世の全ての者を跪かせること。さーて、晴香ちゃんのいる百鬼夜行にも私の支配下になって貰おうか」
なんか、あいつ。陰陽師の本部を壊滅させる力を持っておきながら、なんか発想は三下いうか、雑魚キャラというか。そのまま実力も底辺だとありがたいのだが、リーダーは奴の本体は弱いと語っていた。それは真だと判断していいのかな。
…………待てよ,おい。晴香? 誰だ、そいつは。俺達の中にそんな名前の奴は……いない……。何か、引っ掛かるな。さっきも誰か、はる……なんとか言っていなかったか?
「まずは君達を先兵にしよ……う……。おい、待て。そこの背の高い男。さてはお前、噂の渡島搭吾じゃね? どうして百鬼夜行ではないお前がここにい……」
瞬間だった、山椒魚は声の最中に完全に静止した。どうやら止まっているのは口と喉だけじゃない。体全身が全く動いていないのではないか、この鬼神スキルは何度も目にしたぞ。間違いなく、鬼神すきる『宵氷』だ。
「おっと、口封じだ」
口封じと言っている割には、何の困った顔も見せずに突っ立っている。この理事長、俺達にまだ聞かれたらマズイ何かを隠しているのか。
「行弓君、間違っても今の段階で行くなよ。奴は自分の肉体が貧弱なかわりに能力自体は超一級品だ。迂闊には近づくな、今は……」
背後から足音が聞こえる。まるで怪物が犇めく音だ。いや、それだけじゃない。これは……鼻息? まるで鼾のような音が聞こえる。暗闇で何が近づいてくるのか分からないが、嫌な感じがするのは確かだ。
「三人とも、お兄さんの掛けた宵氷はしばらく消えない。奴を倒したい気持ちはお兄さんも同じなんだが。……まずはこいつらの動きを止めなくてはいけないようだ」
やはり綾文功刀は切り札を隠し持っていたか。どんな強者もある程度力を分身させたとしても、ちゃんと護身用のパワーは取っているものだ。それでも奴は本部襲撃に力を使い切っているはず、そんなに残ってはいないと思ってはいたのだが。
「なんじゃありゃ……」
「牛頭鬼と馬頭鬼ですか。随分とレアな妖怪を操作しているじゃないですか。世界征服だの云々を言うだけはありますね」
牛頭鬼と馬頭鬼。地獄にいるとされる亡者達を責め苛む獄卒で、牛の頭に体は人身の姿をした牛頭と、馬の頭に体は人身の姿をした馬頭をいう。様々な文献に登場する根っからのパワータイプの妖怪だ。