知名度
綾文功刀、人間じゃない悪霊で山椒魚の体躯をしている。体長は人間よりも一回り大きく二メートルくらいある。歯には牙が見えないが、頭の上についている大角が触覚ではないのは分かる。
「けっけっけ。これはこれは百鬼夜行の皆様ではありませんか。初にお目にかかります。綾文功刀と申します。以後、お見知りおきを」
知るか、貴様なんか。即効で殺して忘れ去ってやる。女性の声だった、まるで電話糸口の対応のような、当たり障りのない口調に感じる。
「実は折り入ってお話がありまして。私はですね、世界征服を企んでおりまして。この世のありとあらゆる政府、人種、機関などなど。みんなひっくるめて私の支配下に置こうとか考えてます」
魚みたいな顔した蛙が何を言っているんだ。井の中の蛙は、どうやら大海を知らないようだ。つーか、悪霊に出会って毎回思うのだが、どうして奴等は俺達陰陽師を前にしても動揺しないのだろう。余裕とは違う、まるで根本的に敵だと思って無いみたいな。
「手始めの私の計画はこうでした。まずは陰陽師機関の最高責任者と呼ばれる阿部清隆を操って上手く全国の陰陽師を動かそうとか思っていたのですが。幾分か失敗してしまって、やっちゃいました。吾輩が思っていたほど阿部清隆には知名度が無かったんです。私が単独で御門城に行った時も、家来は覇気が無いし、誰も庇おうとしないし、なんかアレーとか思っちゃって。皆様が持ってきてくれたのですか、その魂。ちょっと腹いせにプロジェクトBを決行しようと思うので、それをこちらに下さいませんか?」
奴の言う陰陽師の長の失格というのは正しい。確かに奴は陰陽師のトップとしては駄目だった。それなりの酬いは必要だったと思う。
「それで殺したのかよ、どんな理由であっても人を殺していい理由にはならないだろう。つーか、魂の中に入っている能力とやらが欲しくて奴を殺したんじゃないのか」
五百機さんは奴の殺した理由を的中させていたな、まあ本当に使い物にならないから殺されたって所まで。まあ流れ弾で死んだ訳じゃなくて、本当に利用できないから殺されたんだな。
「けっけっけ。いいでしょ、あんな奴。害虫駆除をしたんですから。その魂を再利用しますから。私はむしろ、あなたたち陰陽師から褒められるべき存在だ。立場と権利だけを利用し、皆を利用だけしてきた汚物を排除したんですから。これで皆様は晴れて自由の身です。百鬼夜行も今は犯人だと疑われるとか、面倒に感じるかもしれませんが、時間が経てば地方の連携は崩壊します。これで楽に百鬼夜行が天下を取れるってもんじゃないですか」
俺達百鬼夜行の目的は陰陽師の世の中の統一じゃない。誰かを傷つけて得られる勝利なんか求めちゃいない。
「理屈の通っていない言い訳をするな、蛙野郎!! お前を今から丸焼きにしてやるぜ。逃げるんじゃないぞ!!」
13話、完