脅し
格納庫に向かう前にあと二つ確認しなければいけないことがある。それは今、奴が手に持っている薄汚れた緑色に光っている魂。あれは生前に特殊な能力を持っていた人間の魂の証拠だ。まさかとは思うのだが……。
「あのう、理事長先生。あなたがその手に持っているなんか汚い魂なのですが。もしかして……」
「あぁ、言うのを忘れていたな。まずこれから説明すべきだった」
すると理事長は俺達三人の目の前まで来ると、その手に持っていた魂を差し出す感じで見せた。俺と鶴見はそれを覗き込む。間近で良く見るとより一層に気色の悪さが伺える。美しい新緑の緑とは程遠く、まるでカビの生えたパンみたいな薄呆けた汚い色だ。
「察する通るだよ。これはあの有名な阿部清隆の魂だ。いやぁ、昔に護衛していた時代があるから、今のお兄さんの心境としては虚しいね。まあでも、呪うなら育てた連中をだね。甘やかしすぎなんだよ、回りの連中が。好き放題に生きて、好き勝手に死にやがって」
まあこの人は元本部在籍の陰陽師だからな……。追継が理事長に対して鋭い目で見つめているのが気になる。なんか、お前が言うなって顔だ。
「そんなことより、どうしてこいつがその魂を持っている。そいつは本来、火車の一体が格納庫へ運んでいるはずだ」
理事長は悪びれる素振りもなく、平然と答えた。
「君達よりも先にこのポイントに到着して、既に火車から魂を回収させて貰ったよ。出来れば君達と合流してからの方が良かったんだが、奴がいつ現れるか分からないからね、とにかく回収を最優先させて貰った。まあこうして悪霊より先に君達と会えたから結果オーライだけど」
まあありがたいと思うべきか、こちらの手に魂が入ったのだから。
「それにしてもよく火車がすんなり魂を渡したな」
「あぁ、簡単、簡単。火車に行弓君の成績や進学の話を出して脅したら、すぐに手渡してくれたよ。いやぁ、助かった。教師が生徒の成績を弄れる訳がないのにね」
ここだけを聞くと、この人が悪役みたいだな。つーか、運んでいた火車と連絡が取れなくなった理由はそれか。騙されたのが面目なかったんだな。
「妖怪にまで成績を心配されるお兄さんっていったい……」
悪かったな、そんなに頭が良くなくて。つーか、勉強に時間が取れないのは百鬼夜行の任務があるのが原因でもあるだろうに。
「あのぉ……」
不意に後ろから声が掛かった。そこにはまだ不安そうな顔をしている鶴見の姿があった。たぶん俺が気にかかっている事を鶴見は聞くつもりなのだろう。
「どうして理事長一人なのでしょうか。我々はただでさえ人数が少ないのに。百鬼夜行と違って緑画高校には人材はたくさんいるでしょう。レベル3の悪霊相手に四人だなんて……。他にこちらへ来ている人はいないんですか? 例えばあの、目目連使いの人とか」