格納
というわけでその格納庫とやらに三人で向かっている。
追継はいつも通りのクールな顔でスタスタと歩いている。歩幅の違いを感じさせない、不意の襲撃の警戒としていつぞやの妖狐が肩の上にお座りしている。あいつ小学生の女の子の肩の上に平然と乗っかっているが、体重はどのくらいだろうか。
鶴見牡丹は不安そうな顔で歩いている。不安があるのは当然だ、異常なのは追継の方だ。ここはいつ戦場になってもおかしくない。敵討ちを狙う地方の陰陽師の連中、火車が取りこぼして彷徨っいる赤い魂、そして悪霊。予想外の事態など想像しあたらキリが無い。俺達は今、あらゆる方面の団体から狙われているのだ。
リーダーは出発の際に鶴見に気を配るように命令された。そりゃ俺だって不安そうにしている奴に何かしてあげたい気持ちは山々だが……俺だって不安がないわけじゃない。むしろ俺だって心が不安で溢れそうになっているくらいだ。
「だが……皆も頑張っているんだよな。俺だって頑張らないと」
悪霊退散は陰陽師の務め。ここで百鬼夜行がしっかり悪霊退治をしているという所を見せつけなければ、いつまで経っても信頼を勝ち取れない。
「それで格納庫に向かうのは分かりましたが、どうも勝手が悪いですね。格納庫に向かう道中で阿部清隆の魂を運ぶ火車が悪霊に襲われたら、私達が霊界に来た意味がなくなります」
そりゃあ、そうだな。だからこそ火車のパートナーである俺の出番だ……ったはずなのだが。事情を説明するために、御札から火車を般若モードで取り出した。直接説明して貰う為だ。
「申し訳ありません。先ほどから呼びかけているのですが、何故か阿部清隆の魂を担当した仲間と連絡が取れなくて……、妖力の反応は消滅はしていないから、戦闘にはなっていないとは思いますが。単純に無視しているのか、それとも何か重大な理由があるのか……。何とも言えなくて」
俺が遠隔操作で見えない火車とコンタクトを取れれば幸いだったのだが、そんな都合の良い物はない。ここは真っ直ぐ格納庫み向かっていると信じるとこしか出来ない。
「その火車が綾文功刀に既に操られているかもしれませんね」
追継っ、……そういうこと言うなよぉ。そうかもしれないけどさぁ。
「いえ、何者かに妖力の侵入を感知したら私も行弓ちゃんも確認できるはずです。まあ相手がレベル3の悪霊なので何が絶対という保証もありませんが」
そうなんだよなぁ。ふと鶴見の方を見ると、まだ心配そうな顔をしている。会話に入って来ないと思ったら、彼女の精神はそれどころじゃなかったようだ。俺ももっと緊張感を持った方がいいかも知れない。
その時だった。真っ暗な霊道を歩く俺達の目の前に……あの人が現れた。
「大丈夫だよ、阿部清隆の魂は無事さ。なんせこのお兄さんが保護したからね。さぁ、良い子の皆。お兄さんと一緒に格納庫まで届けに行こう!! ってやっほー!! 晴菜ちゃん、晴菜ちゃん。お父さんだよー」
右手には薄汚れた緑色の魂を持った三十代くらいのおっさん。この少しおどけた感じ。感知できない妖力、自分の一人称をお兄さんと呼ぶ気色の悪さ。間違いねェな。
………………理事長っ!!