規模
魂から能力だけを抽出する、そんなことが出来るのか。
「今更、レベル３の悪霊がどんな能力があっても驚きませんが……、一度殺して魂を霊界まで取りに行くとか、やっている事が常軌を逸してますよ。そこまでして欲しい能力なんですか」
陰陽師組織に恨みがあるとか、全面戦争が目的とかそんな理由じゃないのか。まるでその悪霊は自分の為だけにしている事だ。拍子抜けしているのではない、ただ殺した理由の規模が低すぎる。
「ふざけてやがる、陰陽師組織のトップがそんな自己満足で死んだってのか。あの人の肩に上に何人の心が乗っかっていたと思っているんだ」
俺は頭首様を敬うように育てられた。妖怪を奴隷にする方針と同じように、主義として押し付けてこられたのだ。地方の連中は未だにあの阿部清明の潔白さなど欠片も残っていないあのデブを、神のように心の拠り所になっていた。
何人の人がこの事件で生きる希望を失うだろう。奴の言っていた『存在するだけの救世主』ってのは存在したのだ。俺は奴が嫌いだったが、奴を見たことも無い連中には奴は救世主だったのだ。
ここに歴史が終ったんだ。
「それを……能力の奪還だ？ ふざけるなよ。どんな生きる価値の無い屑でも、衰退した時代の汚物でも、どんな理由があっても人を殺していい理由にはならないだろ」
俺は馬鹿野郎だ、俺は百鬼夜行のメンバーだから阿部清隆は俺たちの敵だったのに、奴を殺した悪霊に怒りを覚えている。
「ま……、僕はざまあみやがれって気分だけどな。マジで、この戦いが終ったらパーティしようと考えていたんだけど、君がそんな事を思っているなら止めておこうかな。まあ不謹慎だからね」
俺の気持ちなんか汲み取って貰わなくて結構だ。そんな事をして貰いたい訳じゃない。俺の『したいこと』なんて一つだ。
「その操作特化とか言う悪霊をブッ飛ばして、魂をうばわせねぇ」
っておいおい、待てよ待てよ。そういえばリーダーはどうしてその殺された現場にいた訳でもないのに、どうやって殺した犯人を割りだしたのだろう。
「……この前の行弓君が襲われた時みたいに危険が生じるかもしれないから、先に言うんだけどさ。僕は今回の戦う相手と面識がある、実は戦った事があるんだ。その時に奴が喋っていたんだよ。『霊界と現界を合わせる』あの能力が欲しいって。奴の性格は邪悪であっても、悪霊らしくはない。本来の悪霊は人殺しがメインの快楽殺人鬼なんだけど、奴は拷問が大好きな殺人鬼だ」
拷問か……、それは悪霊のする事じゃないな。やはり第三世代になり本来の悪霊の本分とは思えない活動をしているのか。
「奴の能力は『操作』。操った人間が限界まで苦しみ息絶える瞬間を何よりの悦楽だと思っている奴だ。性格だけを見るなら、今まで確認したレベル３の悪霊の中で奴が一番厄介かもしれない」
