敵討
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「久し振りだね、全員が揃ったの。テンションが上がって来たよ」
俺はテンションがダダ下がりだよ。だって五百機さんからは修行相手のお誘いを断られるし、俺の全てを守る宣言は全否定されるし、すぐに打ち破れたし。特に今の阿部清隆に抱えている罪悪感は酷い。以前の俺の任務が無かったら、俺達が奴の式神を奪いさえしなければ、奴を暗殺した野郎を撃退出来たのかもしれない。
それは叶わなかった……。
「さて、パーティでもしたい気分なのだが、そんな悠長な事を言っている場合じゃない。全国の陰陽師機関が混乱の嵐だ、古い奴ほど御世継問題だの財政問題に頭が回らなくなっている。主の敵討ちだって、冷静に僕らを抹殺しようとしている連中もわんさかいるけどね」
だいぶ深刻な問題だと思うのだが、悲惨した顔付をしていたのは俺と鶴見くらいだった。ダモンは珈琲を飲んでいて、松林はイヤホンを耳に付けて音楽を聞いてやがる、話すら聞いちゃいない。
「おい、話を聞けよ、おっさん。俺達は今から総統を殺した反逆者なんだぞ。今までよりも酷い有り様になるんだ」
松林は俺の睨み着ける視線に気づいたのか、ゆっくりとつまらなそうにイヤホンを耳から外した。
「あのデブが死んだって話だろ。いいじゃねーか別に、いずれ俺達の中の誰かが始末する予定だったんだから。それに反逆者ってのも、狙われるってのも今更だろ。怖くなったんなら地元に帰りな。お前みたいな足手纏いが消えたら、今よりも俺達は楽になれる」
……相変わらず大嫌いだ、こいつ。久し振りに声を聴いたかと思えば、また帰れって話かよ。誰が逃げるもんか、全てが片付くまでは死んでも俺は帰らないぞ。帰るのが怖いからって理由もあるけど。
「ちょっと喧嘩しないで。あと行弓君、松林のイヤホンは気にしないで。『上司の話を聞かない俺、カッコいい』とか思っているだけだから。音楽は聞いてないの」
「リーダー、何でそれを知っている!!」
そうだな、こんな馬鹿野郎は放っておこう。注意してやろうなんて考えた俺の方が間違っていた。俺以外のメンバーもなんかじと目で松林の方向を見ている。特に五百機さんが酷いのだが、気にせずにいこう。
「さて、これで僕たちはあんまり不用意に動きにくくなった。全くどこの誰かしらないけど迷惑な事をしてくれたよ。さて、予定より早いが仕方がない。これから皆で雁首揃えて、御門城に行く」
…………はぁ? そんな事したら袋の鼠じゃないですか。包囲されて皆殺しになるよ。というか、何をしに行くというのだ。妖怪と肩を並べる事の素晴らしさだの恐るべき新能力を身に付けたレベル3の悪霊だのを語ったところで、ただでさえ伝統の塊である本部の連中が鵜呑みにするものか。そもそも俺達が今回の事件に無関係だってことすら信じてくれないよ。
「リーダー!! そんな一番の危険地帯に何をしに特攻するって言うんですか!!」
「決まっている、阿部清隆様の敵討ちだ!!」