理想
俺はどうすればいい? 確かに諦めるのは簡単だ、だがもう俺に修行相手で思いつく人がいない。右も左も分からないこの状況で動かなくて静止してしまったら、俺は本当に戦闘兵ではなくなる。
そもそも俺が闘いたい理由は何だ? 強くなろうとする理由は何だ?
別に俺は『戦いたい』という気持ちだけで動く戦闘狂ではない。誰かを守りたくて仕方が無く戦っている。それは……。
「俺は百鬼夜行の陰陽師として、他の機関の陰陽師や学校の皆や百鬼夜行のメンバーを、皆を守りたいんです。今まで通りの俺では、強い妖怪を連れてくるだけでは百鬼夜行の『したいこと』だけは守れるかもしれません。でもそれじゃ、俺の主義に反する。俺はこの陰陽師という世界の全てを支えたいんですよ」
咄嗟に思いついた事を叫んだ、頭真っ白で叫んだ。自分で叫んだ今の言葉が俺の本音って奴なんだろう。俺は常日頃からこんなことを望んで、目標として心構えていたのだ。
だが、言い終わって自分の言葉を振り帰ってみるのだが、馬鹿じゃないのか俺。理想が高すぎるよ。どこまで『守る』という範囲を拡大させているのだ。網羅できるわけがないだろう……、でも率直な俺の精神はそれを望んでいるんだよなぁ。
五百機さんは呆れたという顔をするより、幻滅していた。
「君は万年、落ち毀れだった。最近の急成長で自分の強さの度合いが分からなくなっているの。自分が今、階段のどの層にいるのかイメージできていないの。だからそんな的外れな事を考える」
いや、それは違う。俺は自分の弱さをはっきりと理解できている。階段の最下層に佇んでいる事など百も承知だ。自惚れているつもりはない。
「君は分かっていないの。自分のすべきことを、自分の出来ることを。何もかもごちゃごちゃになって、混乱している。君はレベル3の悪霊を目の前にして、不確定な情報ばかりが頭に入って焦っているだけ。だから……」
だから……理想と現実の区別がついてないってか。
だめだ、こんな俺自身でもしっかり頭の中にどうしたいかも整理がついていないような事を、他の誰かに納得して貰おうなんて都合が良すぎる。俺の思い描いた思想はあまりに漠然としすぎだ。でも……。
そんな感じで俺が黙ってしまったせいで、会話が続かなくなり異様な空気が漂ってしまった五百機さんの部屋に、奴が入って来た。
「おや、お兄さんもここにいたんですか」
振払追継だ、いつもの狐耳フードの変な恰好をしている。顔が真剣そうだが、何か嫌な事でもあったのだろうか。
「丁度いいです。二人とも私の話を聞いて下さい。半分、朗報で。半分、悲報みたいなネタです」
なんだその微妙な言い回しは、すっごく分かりにくいぞ。
「御門城当主である、現陰陽師機関統括の最高責任者。お兄さんが百鬼夜行に入隊したばかりの任務でお会いしたらしい阿部清隆様ですが……。昨日、何者かに暗殺されました」