画面
飛鳥はすぐに今日の報告を上司にしたところ、結局何の対策もしないそうだ。そもそもそんな組織が完成するはずはなく、他の陰陽師に出来るだけ関与したくない。なんの確かな情報もなく、大きい事件にもなっていない。放置する理由としては、まあこんなところだろう。
俺の処分については、これもまた放置。百鬼夜行だかなんだか知らないが、もう陰陽師を辞めたお前が何しようが、関係ない。ただ俺達の迷惑になるような事件だけは起こすな。そう幹部の連中に言われた、なんて愛の無い大人達だろうか。
先代の振払追継についてであるが、連絡先や電話番号を知らない為に、お孫さんの存在の事実について確認のしようがない。なぜ彼女は俺に何も伝えてくれなかったのだろうか。あの娘が何歳なのか定かではないが、もし俺が小学生の間に、二代目の振払追継が誕生していたなら、なぜその事実を教えてくれなかったのか。俺と別れた後に、預けた式神の所有権が入れ替わっていたのなら、なぜ俺にそれを伝えてくれなかったのか。俺はあの人を友達のように思っていた。嫌いな奴が多い職場の中で数少ない理解者だった。俺は少なくともそう思っていた。なのに、彼女は一体、俺が笑っていた時に何を思っていたのだろうか。俺が陰陽師の機関を抜ける際に、俺のことをどう評価していたのだろうか。今となっては、何一つ分からない。
家に帰ったら、火車に死ぬほど怒られた。確かに全面的に俺が悪い、式神契約による影響を舐め過ぎていた。式神がいる、それだけで陰陽師には重い責任が掛ってくる。御上に昔、習った教訓だ。その事を軽くしか考えていなかったのが原因で発生した失態だ。さすがに反省した。これからは、護衛ありの生活を送ることを約束した。
さて、あと一つ問題が残る。記憶消去の件だ。都合の良いことを言っていられず、仕方なく火車から妖力を供給して貰い、この事件に関する全ての記憶を抹消した。慣れない作業に、戸惑い、慌て、混乱し、何度か失敗したがなんとか目標を達成出来た。しかし、作業終了時間は午前五時。ほぼ徹夜。しかも朝練があるために、ここからの睡眠はほとんどない。鏡に自分の姿を写すと、目にくまがくっきりと出来ていた。今日の授業はまともに聞けないだろう。
「おはようございます、部長」
「うむ、おはよう」
部長には悪いがこの時間は睡眠に使おう。
「おいおい、待ってくれ。二度寝は健康に悪いぞ、行弓君。この画面を見てくれ」
うるせーよ、二度寝じゃねーんだよ。と言い返そうかと思ったが、部長の命令は絶対なので下手に抵抗せず言うことに従い、画面を見た。
「私の新しいゲームの題材だ。昨日の夢の中で見たんだ」
そこには可愛らしい狐を肩に乗せた、陰陽師の姿があった。ちゃんと記憶消去出来ていないかもしれない。そう背中に寒気を感じた。
二話完結