瞭然
奴の言っていることが本当だとして、誘いにのってもよいものだろうか。今まで敵対していた奴の要求を呑んでもよいのか。
「こんな人間離れした私の能力ですが、唯一の人間らしさとして『大切な誰かを守れる』というものがあります。私達のような人間に対して大いに無害な悪霊を逃がすことで、これから私達の同峰との戦闘でいくらの仲間を守れるでしょう。天秤がどちらに傾いているかなど、一目瞭然ではありませんか」
仲間を守れるか、確かに能力を欲しいかと言われれば欲しい。最悪の場合を想定してこのグラサン悪霊が俺を騙すつもりであり、俺達を裏切ったとしよう。こいつは能力が緊急回避信号のみしか所持していないなら倒すのは容易い。こいつの彼女かなんかの悪霊も逃げた直後にもう一回捕まえればいい話だ。
「いい……のか?」
「「駄目だ!!」
火車と烏天狗が叫んだ。
「行弓ちゃん、ここは自分の考えだけで判断せずにちゃんと相談してから」
「奴が回避のみにしか特化していないからとはいえ、奴は悪霊じゃ。初対面のお前に全てを見せているとは思えない。奴のあの能力にはもう一つ、何か重要な要素がある」
揺るぎそうになった俺の心を止めた。それは俺の式神だけじゃない。俺の傍にはいつの間にか理事長と……俺達の百鬼夜行のリーダーの姿がいた。一瞬の事で俺には気づく事すら出来なかったが、まるで瞬間移動したかのように俺の目線の先に並び立ったのだ。
「いつの間に!!」
理事長だけがゆっくり俺の方を振り返って、笑って見せた。リーダーは悪霊から目を逸らさないで真剣な眼差しをしている。
「お兄さんの大切な生徒だからね、助けにきたよ。間に合って良かったよ。奴の妖力の触媒になっていたら本当にどうしようかと思っていたよ」
「僕の大切な部下だからね、助けに来たよ。随分と緊迫した状況だったみたいだみたいだけど、僕の大切な部下を……よくも。君に情報を与えなすぎた。無責任な僕の落ち度だ。本当に御免よ行弓君」
まだ何もされてませんよ……妖力の触媒ってなに?
「第三世代型の悪霊は『陰陽師』に酷似していると仄めかせたよね。実は奴等には自分以外の誰かを妖力の供給源にすることができるんだ。陰陽師が式神契約をして妖怪から妖力を得るように。奴らはその対象を選り好みしない。式神だろうが、妖怪だろうが、陰陽師であろうが、妖力を持った相手ならばお構いなしだ。勿論、同じ悪霊でもね」
だったら何か……あのまま奴の口車に乗ってしまっていたら、俺は悪霊の手先にでもなっていたとでもいうのか。