恰好
場所は中庭。時は放課後の真っ最中。こんな陰陽師機関紛いの学校でも部活動なんて物があるらしく。みんな楽しそうに青春の汗を流している。俺は百鬼夜行の活動がある為にそんな物をする気はないが。
で、俺は相良と一緒に理事長の話を聞いてレベル3の悪霊が一体どんな奴等なのかを知る為に乗り込んだのはいいものの、完璧な答えは得られずにスゴスゴと退散してきた次第である。
で、えっと……不審者に遭遇した。
「どなたですか?」
「まあ、この学校に不法侵入しました、面来染部なんていいます。この学校に失われた友達を取り戻しにきました。なんちゃって」
誰なんだ、こいつ。何と言うか、恰好が馬鹿みたいに不審者だ。髪が一切見えないようにしているニット帽、少々丸みを帯びたサングラス、密着型マスク、茶色のドデカいマフラー。あとは、ぶかぶかのセーターに、手袋に長靴にジーパン。今は夏だぞ、怪し過ぎるわ。
「あの……学校の事務の方に行って入校許可書を貰ってから……、もしかして場所が分かりませんか」
しばらく沈黙が続いた。なんか俺をじっと見ているだけで返事をしてくれない。
「えっと、許可とか必要だったんですか?」
「そりゃあ勿論。学校ですから。公園ではないので」
許可以前に、お前の恰好で学校に乗り込んだら通報されるとか考えなかったのか。許可が下りないんだよ、そんな恰好じゃ。生徒の安全を考えたら、お前を通す事なんかないよ。よく俺が出会うまでに、女子とかに警察に電話されなかったな。
「とにかくもっと普通の恰好をしてから学校に来てください。その恰好じゃ生徒の皆から変な目で見られますよ」
初対面の人に失礼かと思うが、まあこんな変な人だから問題はないだろう。俺だって心中穏やかではないのだ。
「おやおや、君は私が変態だと思っているのかね。これでも私は一般人だよ、規則を守る事が大好きなA型人間なのだよ。それでだね、私は橇引行弓という人間に用があって来たわけだ。どうやらその男の子が私の親友の事を知っているなる話を聞いてね」
…………何だと。
「橇引行弓は俺ですが」
「あぁ、御免。知っている。だから君以外の人間とは誰一人合わずに君にこの場で遭遇した。こんな変質者みたいな恰好も自分にリスクを負わせる事が目的でね。ほら人間って自分を追い込めば追い込むほど、本来持ち合わせていない実力を発揮できるものだろう。その効果を狙ったのさ」
つまり完璧に俺以外の誰かに合わない為に、あらゆる遭遇の場面を掻い潜って来たと言うのか。そんな恰好をしているのは、『誰にも見つからない』に対し自分を追い込むことによって成功確率を上げたとでもいうのか。そんなアホな。
「会いたいんだ、彼女に」