撤退
「そこは自分で考えてよ。お兄さんが教えてあげられる範囲はここまでだ。あとは自分達の目で探しに行くんだ。なぁに、嫌でも奴らの特性は分かるはずさ。レベル3の悪霊が本格的に行動を開始すればね」
行動って、その辺の一般人を襲いだすということだろうか。そんな危険な事態を黙って見過ごせはしないだろう。それとも百鬼夜行として悪霊に立ち向かっていく際に、嫌でも知る事になることを暗示しているのだろうか。
まあこんな曖昧な状態で手放し運転をされたんじゃ、すぐに確定事項は手に入らないだろう。まあ今日のところは今の情報で我慢するしかないか。こちらもそう簡単に全てが分かりきるとは思っていない。
「さあ、もう気が済んだかい? じゃあ自主的に行動を起こしてみよー」
まあ何事にも諦めが早い……じゃない、折り合いをつけるのが早い俺はまあこんな中途半端でも我慢できるとして。
「ふざけるな!! 部屋まで呼び出してそれだけかよ」
まあ、相良は性格上、最後まで説明してくれないと納得いかないよな。
「まあまあ、相良君。怒るならお兄さんじゃなくて行弓君だろう。だってこの部屋に来るように初めに仕向けたのは行弓君だし、ちゃっかし禁術を使ってあの空間に入るを諦めていやがるあの態度がムカつかない?」
あの野郎!! 俺に怒りの矛先を向けやがった!! 律儀に相良の馬鹿は俺の方を睨みつけてやがるし。まあ確かに始めから禁術での移動は無理かなぁとは思っていたけど。まあ相良の事情とかは考えてなかったな。
「いやぁ、マジですまなかったよ、相良。まあ今度学食でも奢ってやるから」
「飯で釣ろうってか。なめんじゃねぇ」
……何か、本格的に俺って怒られてる? このままじゃマズイ、また相良に前回とは違う変な空間に閉じ込められる気がする。ここは一時退散だ!!
「失礼します!!」
俺は何も考えず部屋を飛び出した。勢いよく部屋の扉を閉めるとダッシュで近くにある階段を駆け下りる。相良に捕まったら、今日の内に無事に百鬼夜行のアジトに帰れるとは思えない。ちなみに逃げたのではない、作戦的な撤退だ。
「ちくしょう、あの理事長。いつかぶっ殺してやる」
まあ走れば廊下なんてあっという間な訳でありまして、兎に角渡り廊下まで辿り着いた。追ってくる様子はない、完全に舞いたか、それとも追手はなしか。いや、どこかで目玉に監視されているかもしれない。あいつの目玉追跡って今を思えばいろいろと便利だよなぁ。
「さて、今日の用事は終わったし……。取り敢えずアジトに帰りますか」
この時にもう少し、危機感を覚えておくべきだった。平和という物はいつの時代も容易くアッサリと崩壊する物だったから。
★
「ちょっとすいません。お話を伺ってもいいですか?」