武勇伝
いつの間に背後に来たんだ…………、全く気が付かなかった。そんなに大声で悪口を言っていた訳ではないのに。地獄耳だったのか。陰陽師が接近してくれば、妖力で感知できたりするのだが、俺も……相良も確認できなかった。
「気にするなよ、橇引。あいつは妖怪よりも妖怪みたいな男だ。真面目に立ち会てもいいことないぞ」
きっと俺は他人の陰口をしていたことでの罪悪感を感じているだけだ。別に奴が瞬間移動したわけではないのだ。驚きすぎだ、俺。もっと冷静になれ。
「で? 行弓君はあの悪霊と再会する為に、お兄さんに相良君の禁術である畳返の発動の許可を貰いにきたって感じだったよね。まあ、お兄さんの部屋はもうすぐだからそこで纏めて話そうよ」
「どうして俺が会いに来た理由を知ってんだ…………」
「いやぁ、百鬼夜行のリーダーさんとね。今後の方針を決めた作戦会議の時に、君の事についてもいろいろ話したんだ。お兄さんはここ最近の君の武勇伝を知らないからね。そこで話題に君がレベル3の悪霊について知りたがっていると聞いてね。百鬼夜行の面々には口止めしたから、お前も黙っておけってさ」
俺の薄い策略など簡単にリーダーにバレテイタようだ。俺は理事長と相良に挟まれる形で理事長室まで廊下を歩き始めた。
「まあ、相良君もレベル3の悪霊のデータとしてはっきり分かる事は習性くらいだろう。この際だから相良君も、レベル3の悪霊の生まれ方、存在理由、能力の使役、行動パターン、撃退方法とか、知っておいて欲しいんだけどな」
もうそこまで分かっているのか。驚いた、俺はレベル3の悪霊に対して陰陽師側は全くの無知だと思っていた。だって未だに一般の機関はおろか、本部の連中ですらレベル3の悪霊の存在を把握しているか怪しい。そんな相手を断定して存在確認できるなんて、リーダーはどれだけ人間離れしているのかって話になる。
「負け犬の俺に、随分と宜しい待遇だな。あんたの俺への評価は霧散したと思っていたよ」
「相良君。君は少々、バトル漫画の読み過ぎだ。一度負けたから手放すとか、勝者絶対主義とか、フィクションの世界の住人の戯言だからね。時として負けさえも上手く利用するのが大人なの」
「いや、俺はワザと負けたわけじゃねーよ。全力で戦って鶴見に負けたんだ」
俺に負けたとは思ってないわけね、はいはい。
「だからそれで君の何かが消えた訳じゃないだろ。むしろ自分の駄目なところが反省できて良かったじゃないか。まあこれからは、どんな相手にもちゃんと作戦を立てて慢心せずに戦おうな。あともうちょっと、距離を詰められた時の対策を練っておいたほうがいいかも」
「こんな時だけ先生みたいなアピールするな」