雑巾
「じゃあ今から俺と一緒に理事長室に行こう。そして俺から理事長にあの悪霊と会話をする許可を貰う。その場に立ち会えばお前が咎められる心配はないだろ」
「理事長がそんなアホみたいなお願いを聞くとは思えない。間違いなく駄目だって言われるよ。笑われる前に諦めておいた方が賢明じゃないのか」
まあ確かに相良以上に理事長はあの空間への出入りを許しそうにないな。だが、こんな事もあろうかとある秘策を用意している、俺に抜かりはない。禁術の発動許可を与えない場合は、理事長自身から悪霊のネタを聞き出せばいいのだ。一つの提案を犠牲にして、目的である二個目の案を成立させる。
「とにかく、一緒に理事長室に来い。話はそれからだ」
相良は、全く何で俺がこんな事に付き合わなきゃいけないんだよ、みたいな不満そうな顔でイライラしていたが、この前の模擬戦の負い目があるのか、禁術の発動は兎も角として、理事長説得には付いて来てくれた。
今更なのだが、この緑画高校の理事長である渡島搭吾が何者なのか気になってはいる。烏天狗のあの驚きよう、この学校の統括を締めていて全国の陰陽師狩りの指揮官みたいな人物、そして二代目振払追継の父親。この上なく謎だらけな男だ。
「あの理事長って何者なんだよ」
「さあ、俺も別に深い付き合いとかじゃないからな。噂で聞くと理事長は陰陽師機関本部である御門城の総帥護衛の任務を任された逸材で、史上最年少で任務に抜擢され、史上最年少でクビになったらしい。あくまで噂だから、俺は信じていないけどな」
それって凄いのか……。いや、凄いんだろけどさ。
「あの、振払追継の父親ねぇ。分からないなぁ」
俺は一代目のお婆さんであった振払追継とは付き合いが深い。お互いを信用しきって俺の烏天狗の後見人になって貰った人だからな。まあ見た目は普通の巫女服のお姉さんって感じだったけど。完全に年を妖力で誤魔化していたけど。引退したって二代目からは聞いているが、元気にしているだろうか。
「振払追継ってお前に初めて会った時に、一緒にいた小学生だろ。あの野郎の娘かぁ。俺は奴の方が分からねぇよ。内の理事長の性格は結構分かりやすいぜ」
まあ、別に何かマイナスなイメージがあるのではないが、どうもあの手の輩は猫被っている気がするんだよなぁ。俺の人生からの資源だが、常に薄ら笑いを装着している奴に、真面な精神を保っている奴なんかいない。小学生の頃から大人からボロ雑巾のように扱き使われてきた俺には分かる。
「馬鹿め、ああいうどんな奴にでも笑顔を振り撒いている奴は基本的にロクデナシなんだよ」
「誰がロクデナシだって?」
……………え? 理事長がいつの間にか背中に立っていた。いつの間に……。