被雷
相良との模擬戦が終って一週間が経った。あの悪霊に会いに行くというのは俺にとってかなり勇気のいる事である。相手は陰陽師の宿敵である悪霊だ。陰陽師という機関の存在意義と言っても過言ではない。それだけに単独で向かうというのはかなり危険だ。
しかも俺は明確に討伐目的で奴に会いに行くのではない。勿論、式神は連れて行く予定ではあるが、奴と戦う予定はない。専ら奴から情報を得る為に行くのだ。交渉談義ですらない。何が言いたいかと言うと、俺が今からすることは陰陽師としての裏切り行為と捉えることのできるような真似であるという事だ。
だから何だ、もう俺は一度仲間を裏切っている。よつばや飛鳥、笠松町陰陽師機関から俺は背を向けたのだ。別に陰陽師に復帰した訳ではないので、直接的な裏切りではないが。それにリーダーや百鬼夜行の面々が俺に対して意味深に情報を流さない事を考慮してイーブンといったところだろう。
つべこべ言っても、あれこれ考えても始まらない。答えはヒントを得なければ導きだせないのだ。考えるより、動く。情報はネットと足で手に入れる。俺はこれ以上、暇人の受け身な人間ではないのだ。
特に何もしない陰陽師のあだ名が、だんだん返上できている俺であった。
★
「つー訳で、相良。もう一回、俺をあの空間に入れてくれ」
「馬鹿だろ、お前」
もうすぐ夏休みで一学期が終局に向かう時期。制服の半袖姿の俺は机の上で項垂れている相良に会いに行っていた。いや、会いに行くもなにも俺と相良は同じクラスな訳だが。
「俺があの技使って、どんだけ先生方の怒りを被雷したと思っているんだ。今度使ったら停学退学永久追放だぞ」
クラスメート達が心配そうにこっちを見ている。俺と相良が乱闘を起こすのではないかと、不安に思っているのか。しねーよ、こいつとまた戦ったら俺がタダじゃ済まないからな。
折角、クラスに溶け込めるように努力する所存だったのに。あの転校早々のバトルのせいで鶴見はまた番長としてのポジションを取り戻し、俺もあらぬ目線で怖がられる始末だ。冗談じゃないよ、当初の俺のプランはこんなはずじゃなかったんだ。もうすぐ夏休みだから、挽回するチャンスすらない。
「いくら頼まれようと、駄目なものは駄目だ。理事長の許可なしにあの技は使えない。俺も少しは反省したんだ、もう自分勝手な真似はしないってな。自分が井の中の蛙だったことがよく理解できた。だからこそ、しばらくは大人しくしていたいんだ」
くそう、こいつが反省したのが思わぬタイミングで裏目にでた。
「つーか、帰ってくれ。しばらく一人にしてくれ」
なんか不覚にも可哀想と思ってしまった俺であった。だが、こいつがどんな状態だろうと俺には果たすべき目的がある。