助人
そこにいたのは、日頃の巫女服ではなく制服姿の日野内飛鳥さんだった。助かった、俺を助けに来てくれたみたいだ。なのに、なぜだろう。いつもの残念な人を眺める目で振払追継ではなく、俺を眺めている。
「行弓君が女装趣味の変態になったとの情報を聞いて、警察に突き出す予定でしたが……。どうやら思いの外、複雑なことになってますね」
おいおい、飛鳥。お前まで俺のこと疑ってたのか。俺とお前は唯一の同期。幼馴染といっても過言じゃないのに。そんなにあっさり見捨てるどころか、自分から断罪しに夜回りするなんて。
「お久ぶりです。振払さん。お変わりなく」
「いえいえ、貴方の知る振払追継ではありませんよ。初対面ですので名乗らせて頂きます。二代目振払追継です。宜しくお願いします、日野内飛鳥さん」
「……?」
理解不能なのは仕方がない。俺でさえ、まだ信じられないのだ。あの振払追継に孫がいて、そいつが二代目として後を引き継いで、百鬼夜行なんて新機関に属しているなど。
「何か口に入れてはいけないキノコでも食べましたか?」
純粋な嫌味にしか聞こえない質問で、脳内の整理不能を訴える飛鳥。今の飛鳥の発言の後、俺はしっかり確認した。あの笑顔で拳を固め歯をギシギシしているお子様同然の追継さんから、ぶちっとどこかの血管が切れる音を。飛鳥、これ以上あの女の子を怒らせちゃ駄目だ。
「お姉さん、お前もそこのニートと一緒に地獄に葬る」
道路の真ん中で陰陽師同士が戦うのなんか、どうでもいい。建物が壊れようが、地面にクレーターが出来ようが、一般の方々に見られようが、ご都合主義もとい鬼神スキルで万事解決。死人さえ出なきゃ問題無い。しかし、この戦場には非戦闘員である俺がいる。せめて俺を安全地帯に逃がしてから、初めて下さい。なんてどっちに言っても受理されないな。
「いや、私的には追継さんと久し振りにお手合わせ出来て嬉しいのですが、これから応援が駆けつけます。たった一人と一匹では、妖刀持ちの高レベル陰陽師である振払追継さんでもさすがに分が悪いのでは?」
ちっ、と離れている俺達にまで良く聞こえるくらいの音量で舌打ちした。その後、ゆっくりと下切雀をお札に戻し、狐も一瞬で手のひらサイズになり、美しい宙返りで追継の肩に乗り、お座りした。
「いいです、今日はこの辺で勘弁してあげましょう」
「おい待て、皆の記憶を消すという、後かたずけの作業が残っているだろうが」
「五月蠅い、裏切り者。根性なし、偽善者!!」
若干、正しい部分が絶妙にある。
「では、御機嫌よう。また会うことになるので覚えておけ、高校生!!」
その言葉を最後に振払追継は夜の闇の中に消えていった。って、俺の変態疑惑があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。