拘束
会場の雰囲気が凍結した、ここにいる大半の者が勝敗を決定づけたのだろうか。その場を立ち去ろうとする奴こそいないが、観戦する構えを解いている。あれだけ五月蠅かった機械も静止して白衣の連中はノートパソコンを畳んだ。頭にバンダナを着けていた連中も正座を崩している。終わったのか、本当に鶴見は敗北してしまったのか。
「おい、待てよ。まだ審判は何も言って無いだろ。まだあいつは戦えるはずだ。だから……」
声が出ない。まだ鎖に巻かれた巨大提灯は動きもしないのだ。彼等を引き留めるだけの何かが俺にはない。どうしようもない絶望感だけが俺の脳内に残った。
「……あのね、行弓君」
リーダーが俺の方を向いてまるで宥めるかのように言った。
「大丈夫だと思うよ。鶴見ちゃんだけど」
「大丈夫って、大丈夫な訳がないでしょう!! 奴は今、拘束されていて全く動けない状態なんですよ。いつ審判が見かねて試合を止めされるか!!」
「こんなに時間が経っても何も言って無いでしょう。鶴見ちゃんは死んでもないし、気絶もしていないし、負けてもいないよ」
果たしてそうだろうか、どうして提灯の中だの一切見えないのにそんな無責任な事が言えるのだ。
「説明すると長いんだけどさ。今の鶴見ちゃんは人間魚雷が如く全身に強大な妖力を炎として纏っている訳だよね。行弓君みたいに妖力を体の中に保っていられる限度が少ない人は、それ以上の妖力を体に打ち込まれた時に、全身から垂れ流してしまうのは知っているよね。今の鶴見ちゃんはその妖力排出を意図的に威力を増して放っている訳だよ」
それが何だと言うのだ、体に残っている妖力がまだあるので勝負は着いていないが、妖力が尽きるのを待ち、何もできずに倒れていろとでもいうのか。そんな時間がきたら負けが決定している状況に、鶴見の勝利できる要素がどこにある。
「だからね、鶴見ちゃんはあの鎖から拘束されると同時に、妖力を無駄に垂れ流す作業を瞬時に停止させたんだよ。だってあの提灯は地面に落下した後に、必死に鎖を破壊しようと抵抗する姿なんかなかっただろ。突進する前から頭の中で、自分が捕獲されるケースを模索していたんじゃないかな」
自分が相手の能力で捕獲される事を計算していた? だったら鶴見は作戦的に相良を上回っている事になる。
「今、動かないのは妖力を今度は自分の体に溜めている訳だよ。ちょうどレベル1の悪霊が巨大化するだけの存在だったのに対し、レベル2の悪霊が溢れる力を能力に生かすようになったかの如く」