跋扈
「次は確実に仕留める」
俺の不安とは裏腹に、鶴見は相良の真意には答えようとしていない。相良の狙いが分かった上で、奴の誘いを断ると同時に倒すつもりだ。
「仕留めるか……そんなに簡単に終わって貰っちゃ困るんだよ。俺が望んでいるのは長期戦だからな。お前が俺以外の他の人間に攻撃しないって思って貰うまでは、俺は防ぎ続ける。中途半端なところでお前の精神を安定に保てないまま、この試合を終わらせられない。俺と一緒に来いよ、百鬼夜行では仲間外れなんだろ」
長期戦を望んでいる……か。時間経過によるゲージの溜め技なんて戦法は漫画ではセオリーだが、対戦相手の満足のために攻撃を喰らい続けることが目的なんて。頭がいかれているにもほどがある。
「百鬼夜行に未来は無い、この学校にも未来は無い。確かにレベル3の悪霊の淘汰を目的に動き出したところまでは認めてやる。だが、結果はどうだ? 関係ないところで大惨事、被害は甚大だ。こんな一千年に一度の絶望的な時代に陰陽師はどいつもこいつも自分勝手だ、これじゃあ本当に世界が滅ぶ。こんな皆で団結しなきゃいけない時期に、内輪揉めなんて餓鬼臭い真似なんてしている暇なんかないのにだ」
筋は通っている、今の解釈は概ね正解だと思う。俺はよく知らないが本当にレベル3の悪霊が跋扈する時代になった場合に、喧嘩なんかしている場合じゃないと思う。
「私はそんな新しい悪霊なんか知らない。そんな物を倒す為に陰陽師になった訳じゃない。あなたが私を何に使おうと思っているのか知らないけど、私はもうそろそろ自分が殺せると思うから。邪魔しないで」
リーダーが言っていた吐き出すという事か。復讐を……終わらせるという事か。いや、自分の元の機関を潰した時点で復讐に決着はついていたはずだ。自分の心の中にあった残酷な過去と苦い思い出を、この戦いで消し去るつもりだ。
「おいおい、俺はただのサンドバックかよ。まあいいや、俺はお前みたいな奴がいなくなればそれでいいから」
「五月蠅い、その上から目線のごちゃごちゃした話し合いはもううんざりだ。終わらせてやる」
噛み合いそうで、噛み合わない二人。
「牡丹燈篭!! 提灯お化け!! そろそろ終わりにするよ」
そう言いつつ……鶴見の体に炎が……あれ!!
前に松林が俺にやって見せた憑依装甲だ。色も形も全然違うが妖力の波が非常に一致している。鶴見の全身を火炎が纏った。
「憑依装甲!!」
その目に写ったのは鎧や装甲などではなく、牡丹燈篭の着用していた上等そうな着物だった。提灯お化けは相変わらず取っ手を右手に掴まれている。そして牡丹燈篭の姿がどこにもない。
「ついに成功したか。あと三年は無理と判断していたんだが……、彼女を引き入れた判断は正しかったらしい」