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機械

 開始早々にド派手な攻撃が決まった。まさか提灯お化けをそのまま武器に使うとは、随分と遠慮が無かったな。


 「妖怪を分身にして奇襲を仕掛けるとは、恐れ入ったぜ。正直に言ってなめてたわ。いやいや」


 「…………早く立てよ。まだ終わりはしないだろ」


 負け惜しみにみ聞こえる相良の言葉は、鶴見への威嚇としては効果が無かったようだ。大きく舌打ちして立ち上がると、目目連も空に浮くように状態を起こした。顔が真っ赤に腫れている、無理も無い。燃え上がる妖力の塊を直に叩きつけられたのだから。強がってはいるが、かなり致命傷ではないだろうか。


 「うっぜぇ、なんだよお前。さっきから黙りやがってよう。ノリが悪いというか、反応が無いというか。何なんだよ、お前はよぉ」


 「……さぁ。私が何者なのかなんて、分からない。鶴見牡丹がどういった人間かなんて考えたくも無い。私は過去の自分に絶望した、塗り替えられない過去に恐怖している。あなたには分からないでしょう。この追い詰められた人間の恐怖か」


 鶴見の様子がおかしい、それは俺の周囲にいる百鬼夜行のメンバーの全員が感じていたことだ。男装を強いられた、精神的なストレスだろうか。それも原因の一つだろうが、それだけと断定するにはどうにも薄い。


 「私はね、陰陽師になりたくてなった訳じゃない。機関の人手不足を埋める為に半ば騙される感覚で陰陽師になった。普通の人よりかは妖力の反応が良かったから。でも家柄の恵まれた血筋に人達には敵わない。だから私はいつも一人だった」


 今まで黙って機械的に戦っていた鶴見が急に感情的な言葉を言い始めた。


 「何だ? 同情でも誘ってんのか?」


 「……だから、私は『牡丹燈篭』を手に入れた。誰にも負けない陰陽師になるために、私を蔑んだ連中を見返す為に。私を否定した大人に復讐する為に」


 俺が前の学校にいた時に、そんなことを俺にも言っていたな。


 「でもね、私は失敗したんだ。誰よりも強くなって、上司を襲い、仲間を裏切り、先輩を怯えさせ、機関を崩壊させた。皆が私の敵だったから故郷を破滅させることはどうでも良かったけど、今度は全ての陰陽師が敵になった、長い時間苦しんだのは私なのに、可哀想なのは私なのに、世間は私の方が悪だと判断した」


 鶴見の目には涙がこぼれていた、その姿を見て相良が言葉を失った。会場にいる全員が声を殺した。さっきまで必死に情報を回収しようとしていた連中のキーボードを弾く音が止まった。それだけではない、会場にいる全員が名称しがたい恐怖で動けなくなった。


 俺は数分前に耳にした、悪霊からの角度アングルについて、思い返していた。どこから話を眺めるかによって善悪は容易く逆転する。


 「私は結局は悲劇のヒロインじゃなかったんだ。いくら待っても誰も助けてくれなかった、必死に頑張っても結果はついてはこなかった。やっと結果を出したら今度はもっと強大な『悪』と認定された。まるで私の人生は蟻地獄みたい。もがけばもがくほど、世界は私を不幸にする」


 鶴見が上空へと浮いた、先ほどのように提灯お化けを風船替わりにしている。取っ手の部分を片手で握る、そのまま牡丹燈篭も空へと上がった。


 「この学校に入っても変わらない。私が捕獲不能レベルの妖怪を持つが故に皆が私を怖がった。百鬼夜行に入っても変わらない、仲間外れ。ついに私は自分の式神にすら裏切られた。それに狂気して関係ない人まで傷つけようとした。もう私だって……私だって……あんなことしたくなかったのに!!」


 ついに鶴見の中の大事な物が壊れた。

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