風船
牡丹燈篭は捕獲不能レベルの妖怪だ、だからセオリー通りにいけば陰陽師の言う事など本来は聞かない習性があってもおかしくない。ちょうど俺の烏天狗がそうだった。だからこそ俺達、百鬼夜行には主従関係ではない絆と言う名の信頼関係で結託する必要がある。鶴見はその部分が未完成だった。
先に仕掛けたのは相良の方だった。
「お前達、百鬼夜行は作戦は大胆だが、いざ戦闘になると引き籠るんだな。良く言えば慎重、悪く言えば臆病って感じか。まあいいや、お前にも入学祝をくれてやらないと不平等だよな」
そういうと、俺が戦闘開始時に喰らったように、あれをするつもりだ。目玉の一つ一つに妖力玉が浮き上がった。俺が秘策であったモード障壁を見せなければ防げなかった、直線コースの拡散弾。
「橇引の野郎は面白い防ぎ方をしたが、お前はどうやって防ぐのかなぁ。俺を失望させないでくれよ、番長さんよぉ」
そう言うのが早いか、鶴見に向かって砲弾が叩き込まれた。ここで鶴見もようやく行動を開始する。だが、鶴見の起こした行動は俺の理解の範疇を超えていた。
「妖力弾の群れに………突進した!!」
自爆行為だ、死にに行っているようなものだ。一度防いでみて分かったが、あの砲弾は一発一発にかなりの威力があった。しかもその群れは一列に並んで飛び込むのではなく、徐々にズレながら空を切る。つまり追い掛ける事まではしないが、相手が避ける方向に向きを合わせるくらいの性能はあるのだ。そして一つが当たれば、動きが鈍る相手に容赦なく他の球が追尾する。
「当たる直前で回避するつもりかよ、冗談だろ。そんな土壇場の軌道じゃ避けられっこねぇよ!!」
「行弓君。違うよ、そんなんじゃない。鶴見ちゃんは始めから守る気も躱す気もない。防御も回避も……己の身を守る戦法を捨てたんだ」
案の定、散弾が突進中の鶴見に衝突した。凄まじい爆発音と共に煙の中から鶴見が………現れない。まさか、あの爆発で一撃でやられてしまったのか。
「はっはっは。本当にあの散弾を突破出来ると思ったのかよ。とんだ実力の伴わない自信家だな、大人しく橇引みたいに引き籠れば良かったのになぁ。血迷ったあげく自爆とは恐れ入ったぜ」
煙はすぐに晴れた、そこには無残な鶴見の姿……ではなく、牡丹燈篭が無傷で突っ立っていた。
「しまった」
「ダミーか!!」
牡丹燈篭は能力の発動した時に、会ったこともないはずの飛鳥に変身していた。確か過去の恋人に再開させる能力だったか。もしかしたら自分の主人である鶴見本人くらいなら化けられたのかも。それにしても、いつの間に入れ変わっていたというのだ。
じゃあ鶴見はどこへ……簡単だ。視界から消える場所など。上空だ、鶴見は提灯お化けの取っ手に掴まって空に浮いている。提灯お化けの様子が登場した時よりも、大きくなっている。まるで風船だ。
「違うよ、私はもう二度と自爆なんてしない。私は勝つ!! 相打ちなって絶対に認めない!!」
その言葉と共に落下して急接近した鶴見が、瞬間的に提灯お化けを収縮して元のサイズに戻し、相良の顔面をぶっ叩いた。元から油断していた相良に真面な受け身が取れるはずもない。そのまま後方にいた目目連ごと、ダイナミックに転げた。