遺憾
代理が用意できた? なんのことだ、追継の奴が俺に変身でもしたのか?
「代理ってなんのことだよ。俺が戦う相手のはずだろ」
「私が提案したんだよ、ここにいる全員が納得のいくように考えた結果が代理戦だったんだ。条件を同じにしたままにして、行弓の代理を出して貰うように、先ほど百鬼夜行の方にお願いしたのさ」
……すぐに、ふざけるな!! と叫ぼうかと思ったが、冷静に状況を考えてみる。ここにいる百鬼夜行の組織としてはプラスが大きいだろう、最初の弾丸とあの禁術発動のおかげで相良は少なからず消耗しているはずだ。その状況から万全の体制の人間を送り込めるなら願ったり叶ったりだろう。
ギャラリーとしても、俺の情報を満足に回収できてはいないのが不満ではあるだろうが、同じ百鬼夜行のメンバーの捕獲不能レベルの妖怪の情報が手に入るなら差引ゼロってとこか。
相良においてはどうあろうか。俺との勝負にはもう興味は無いようだから、また新たな標的を倒して撃墜数を増やすのは悪くない気分だろう。相当な自信家であるようにみえたしな。
つまりこの状況で、俺以外の面々でこの選手交代に異議がある人間はいないだろう。よくもまあこんな事を思いついたものだ、あの薄ら笑いの気持ち悪い理事長。烏天狗が凄まじいくらいに警戒していたが、こんな学校の統率を行なっているくらいだから、この人もかなりの要注意人物だな。追継の父親であるみたいだし。
「……不服ですが、組織の方針に従います」
まるで自分の言葉が負け惜しみの意味に聞こえたので、非常に遺憾だった。でもこの場を離れる時にこのくらいしか思いつけなかったのである。俺は理事長の顔も見らず、相良の顔も見らず、そそくさと後ろを向くとリーダー達のいる百鬼夜行の観客席に戻った。
「すみません、自分勝手な行動を取って」
「構わないよ。君が混乱状態にあったのは分かるし、あんな態度を取られて戦闘中止で気が済まないのは分かる。でも僕は君に無駄な傷をつけて欲しくない。ど根性でこの勝負だけには勝利したとしても、決して君は無事じゃ済まなかっただろう。一回の奇跡の為にこの世には取り返しのつかない事態に一生苦しむ羽目になる、君にそんな思いをして欲しくない」
……そうだ、この戦いは所詮は模擬戦だ。俺の全てを投げ捨てられる闘いではない。俺にはまだ為すべきことが多くある。
「で? その代理って人は? やっぱり追継が戦うのか?」
相良のスカウトを命じられたのは、俺と追継だ。やはりここは、追継が出向くのがスジだと思う。
「私は構わないのですが、何せ審判が私の父親ですからね。公平さが崩れる危険性があります、そもそも私が戦う事を彼は良しとしないでしょう」
そうだった……、あの審判は追継の父親だった、溺愛しているという話がホントならバトルそのものがNGになるかもしれない。じゃあリーダーはないにしても、この場にいるダモンだろうか。
「大丈夫、もう学校の校門前まで来ているよ。この学校の元番長がね」