代理
どうやら俺を気絶させたことで相良は自分の勝利を思っているようだ。だが、理事長はそれを見て、ジャッジの判決をしなかったらしい。
相良の反則負けだと判断しているのか、いまだ戦闘続行だと判断しているのか。俺は審議を確かめる為に、相良と理事長のいるリングへと一人で向かった。追継が付いてこようしたが、来ないように手でサインを出す。ここで仲間と一緒に登場したら、俺が戦闘続行の意思が無いと思われてしまう。徐々に二人の話声が聞こえてくるような位置になってきた。
「だから……奴が気絶したんだから、俺の勝利だろ」
「相良君、僕は君にあれほどあの禁術を使うなと言ったはずだ。あんなのは精神的空間に閉じ込めただけで、相手を倒した訳でも、君が何か行弓君を上回った訳でもないだろう。本当ならば寧ろ君の反則負けなんだ、お兄さんも一緒に謝ってあげるから、もう一回戦おうよ」
一度倒した雑魚とは戦いたくないなんて表情で、理事長の話に耳を傾けようとしない。自分の意見が通らない事に不満そうな感じだ。
「よりにもよって、あの悪霊を封印している空間に閉じ込めるなんて正気の沙汰じゃないよ。君は自分がレベル3の悪霊を封印出来た事に慢心している、行弓君がついうっかり彼女に出会っていたらどうするつもりだったんだよ」
「知るか、奴は俺がしっかり封印している、誰を攻撃することも出来ねぇよ。それよりも……起きたみたいだぜ。橇引行弓って野郎」
理事長と相良が俺と目線を合わせた。それに俺が睨み着け返した。気付いたら話を聞く為に足を止めていたが、俺はもう一度リングの方へと歩き出した。
「お前の結界から脱出してやったぜ、相良。これで俺はお前の術に敗北してない事が分かっただろう。さぁ、続きを始めようぜ」
妖力が枯渇しているのは事実だ、遠距離を得意だと言っていた相良の奴に対しそう簡単に接近出来るとも思っていない、だから妖力を吸収も困難だろう。まだ奴が全ての手の内を明かしたとも思えない。だからって俺は見栄を張らなきゃいけないんだ、俺はもう逃げないって……。
俺が好戦的になっているのに対し、相良は上から目線で見下したような顔をしている。もう自分が勝った気になって戦意が無いのか。
「おい、相良。俺は結界に閉じ込められただけで、お前との勝負に負けたつもりはないぞ」
「そんな状態で続けたって時間の無駄だろ。お前は雑魚なりによく戦ったよ。悪霊の力を借りたんだろうが……、それでもあの空間から逃げ出すなんて大したもんだ。この辺で有耶無耶にしておいてやるから、大人しく引き下がったらどうだ」
冗談じゃない、俺には飛鳥との約束がある。俺に逃げ出すという選択肢はない。例えどんなに勝率が低かろうと、条件が悪かろうと関係ない。俺に退路は存在しないのだ。
「こんな時だけ恰好つけなくてもいいから、君はさっき目目連の結界の中で体力も妖力も大幅に消耗しているはずだよ。病み上がりの負傷者をすぐさま戦わせるわけにはいかないから」
理事長が何か言っている、知ったことではない。俺は中途半端な理由で闘いを投げ出すわけにはいかない。どうにも話が纏まらない、そんな時に後ろからリーダーの大声が聞こえた。
「行弓君、帰っておいで!! 代理の用意が整ったよ!!」