中止
俺は一体、どうなった?
障子だらけの空間に閉じ込められて、その空間で目玉から逃げ回り、鋸貝で何とか撒いたと思ったら、今度はやけにフレンドリーな悪霊に遭遇し、その悪霊さんからこの空間からの脱出方法を教えて貰って、その通りにして……。
「ここは……」
「気が付いたかい……、行弓君」
まだ会場の中ではあった、だが俺はリングの上には立っていない。リーダーやダモンが座っていた観客席に横たわっていた。試合はどうなったのだろうか。
「どうして俺は……。それよりも戻ってこれたのか」
「どうやら後で詳しい話を聞かなくてはいけないな。だが、まずはこちらの現状を確認して頂きたい」
そう言って、腰を地面に下した俺に対しリーダーは、人差し指を使って前方を見るように注意を促した。そこには相良と理事長が言い争いをする姿が見られる。
「君は本来、悪霊に対してしか発動してはいけないと言われる、超大型の禁術を掛けられたんだ。しかも、奴はその空間を独自に改良していたらしくてね。君が二度とこの世界に戻ってこれないんではないかと思って……、僕は本当に心配したよ」
禁術……、あの『畳返』とかいう鬼神スキルか。
ダモンや追継までもが駆け寄ってくる。二人とも心底心配したような顔をしている。俺はそれほどまでに危険な状態にいたのか。
「もしかして気絶していたって事で、俺の負けが決定したとか」
「そんな事を訴えているのは相良君だけだ。あくまで模擬戦の予定だった練習試合に禁術を使ったんだ。本来ならば我々が向こうの反則負けを訴えたいくらいだけどもね」
そうか、俺は形や原因はどうであれ……気絶していたのか。
「気合いを入れて望んでくれた所申し訳ないが、多分これは無効試合となりそうだ。あちらの審査員が先ほど僕にそう提案してきたからね」
「そんな!! まだ俺は戦えます!! まだ奴も会場にいることだし、今この瞬間から試合を続行させて下さい」
俺はあの悪霊と約束した……、相良を倒してくると。このまま黙って無効試合なんて納得いかない。不戦勝だって気に食わない。俺と相良との戦いはまだ終わっていない。
「……そんな訳にはいかない。闘いは絶対に中止だ。君がこれ以上に相良君と戦うことは絶対に許さない」
「お兄さん、そういう訳にもいかないんです。実はお兄さんはちょっとあの畳返の影響でダメージを負ってしまっているんです。妖力が大分減っていますし、火車も烏天狗も肉体的なダメージはともかく、多くスタミナを持っていかれてしまいました。今の段階で戦っても勝ち目がありません」
そんなことは……あるかもしれない、俺はあの空間を焼き切る為に多くの妖力を注ぎ込んだ、俺も式神達も妖力はカラカラかもしれない。だが、元から妖力の限界量が少ないのは想定内、俺には逆転の一手である妖力吸収がある。だから……逆転出来る可能性がまだ残っているはずだ。
待てよ……どうして、俺はともかくお札に閉まったはずの妖力の現状を知っているのだ? そして肉体的ダメージを受けていないのを知っている?