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火傷

 「感情を手に入れた瞬間にこれだよぉ。二世代の機械みたいな感じだったらこんな目にあったら、こんな監獄の中でも余裕だったのかもしれないけど、下手に感情を持ってしまったからさぁ。きついのなんの。そろそろ逃がしてくれてもよくない?」


 よくないよ、可哀想だと思うけど、脱出方法を教えてくれたのは感謝しているけども、やっぱり悪霊は野に放たれるべきじゃないよ。


 「えっと……ちゃんと反省しないと駄目じゃね? 人を襲う可能性が消えない限り絶対に外に出す訳にはいかないよ、俺だって陰陽師だからさ」


 反撃されない保証がある事をいいことに綺麗事を言っているのは分かっている。しかし、ここで俺がヘマをしてここから出たいばっかりに悪霊を解放するのは宜しくない。陰陽師にはどうしても私情を優先してはいえない場合がある。


 悪霊は、はぁ~と力が抜けるような溜息をつくと、その場に腰を下ろして初めて会った時のような寝っころがった姿勢に戻った。


 「だから火事になったくらいで逃げれないってば。この監獄は君が思っているよりも百倍は私にとってたちが悪い部屋なんだよ。私が君の脱出に便乗君と一緒に逃げ出すなんて考えているんだろうけどねぇ、私はこの部屋から出たら全身をズタズタにされて回復もできないんだ。もっと確実なタイミングに脱出するよ」


 ……信じていいのか? 俺はこの空間から逃げ出さなくてはならない、絶対に負ける訳にはいかない、俺はまだ百鬼夜行の中でしなくてはいけない使命がある。確かに安全を優先してこの場から動かずに助けを待つ方法がある、だが制限時間が無い以上は、助けて貰った時点で俺の敗北が決定してしまう。そもそも目目連に敗北さえすればちゃんと相良が俺を助けてくれるのかもしれない。


 俺が元の笠松機関の陰陽師だったら、ここは大人しくするのがベストだろう。悩まずに待機する事を選択する。だが、今の俺は立場が違う。相良と戦わなくてはならない。だからこんな下らない小細工で手をこまねいている暇はないのだ。


 「俺はにげねぇ、ビビってたって始まらねェ。俺は相良に勝つ!!」


 制服のズボンの中から十枚ほど、お札を取り出した。すぐに火車を般若モードで召喚する。おまけに烏天狗も引っ張り出した。


 「よし、この空間を焼野原にするぞ。全力で火炎をばら撒いてくれ。烏天狗はその火を風で炎を拡大させて」


 「でも行弓ちゃん、この際に悪霊の事は諦めるにしても行弓ちゃんが危険なんじゃないかな」


 「最初は俺もそう思ったんだけどな。ちゃんと一定時間が経ったら烏天狗に風向きを変えて貰って、炎と煙を吹き飛ばして貰う」


 「ふんっ」


 仕事内容があまりに楽勝すぎるのか、小さく鼻息を鳴らした。俺は雑用係か!! 、とでも言いたげだった。俺だって出来れば活躍させてあげたいのだが、その前に相良の元へ辿り着かなくてはならない。


 「俺の呼吸は烏天狗がいれば安心だよ。あとはあの悪霊さんが……」


 陰陽師でありながら悪霊を気遣うなんて言語道断だと思う自分への失望と、折角協力してくれた恩人に恩を仇で返すような真似をする自分への罪悪感が、心の中で混ざり合う感覚がある。


 「い~よ、切り傷に火傷が増えるくらいどうでもいいや~。それよりも……相良君を必ず倒せよ、陰陽師」


 その言葉を最後に悪霊は煙に紛れて姿が見えなくなった。火車による放火が始まったのである。思ったよりも炎の広がっていくスピードが早かった、それと同時に煙が蔓延まんえんするスピードも。これは早く烏天狗を俺の呼吸確保に回した方が良いかもしれない。


 ありがとうと言って無い。


 そう思う前にこの空間自体が崩れさった。

 第十話、完

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