監獄
……出してあげる? どういう風の吹き回しだ?
「えっと……いいの?」
「うん、別に私は君を殺すつもりも、この空間に閉じ込めるつもりもないしね。私を封印した相良十次君に一泡吹かせられるなら、惜しみなく協力するよ」
どうやら相良はこの悪霊と対峙した関係にあるようだな、奴が『俺は陰陽師じゃない』とか言っていたから、てっきりこの空間を這いまわっていた目目連同様に、手懐けているのかと思っていた。そもそも悪霊はそんな玉じゃないか。
「何か見返りとかを考えているのか、その……魂を寄越せとか、ここから私も脱出させろとか。思いつくのはこれくらいだけど」
「そんな交渉とかがしたい訳じゃないよ。私はこんな死体の姿をしていても根は優しい、心が透き通る、慈愛に溢れた、悪霊だからね」
悪霊の存在意義を全否定しやがったように感じた。つーか、自分に対して根は優しいとか使った奴は始めて見たぞ。
「逃がしてくれるありがたいです。どうも自力では脱出出来そうになかったので。お礼とか出来ませんけど」
おい、待てよ俺。相手は悪霊だぞ、陰陽師と幾多の交戦を繰り広げてきた奴等だぞ。そもそも陰陽師の任務は悪霊退散だ。たかが学生同士の模擬戦に、悪霊の力を借りても良いのか。まさかこの悪霊は何かしらの罠を張っていて……いや、そんな物を利用しなくても俺くらい瞬殺できるはずだ。
「お~や~、もしかして自分で脱出をする予定だったのに~、邪魔しやがってとか思っているの? プライドが傷ついたのかな? まあそんな男のロマンが溢れる気概は別の機会にとっておきなよ。別に誰も見ていないって」
そんな下らない感情でチャンスを見過ごすほど、カッコいい人間じゃない。正直、この場から逃げ出せるなら悪霊の手も借りたい一心だ。だが……怖い、相手が悪霊なのが怖い。俺じゃない陰陽師だったら、間違いなく勝算が無くても挑みかかっただろう、自分の責務を果たす為に。俺がそんなに勤労精神が出来上がっていないのが、この硬直の所以だ。
「あの……何で俺を攻撃しないんですか」
「ん? あ~、成程ね。最もな質問だね。答えはこうだよ、私はこの空間では強制的に妖力を発動出来ない仕組みになっていてね。私はこれでも囚人みたいなものでね、この空間は私にとっては監獄結界も同じなんだ。言っただろ、私は相良君に封印されたって。封印が解けないように私の体には、鎖が繋がっているのさ」
そんな鎖など見当たらない、どこにそんな物が。
「見えないかい? この体の傷。この部屋から一歩でも外に出ようとすれば、全身からバックりと切り傷が受きでる仕組みになっているんだ。この大広間だけが安全なんだよ。ちなみに妖力を表に出しても同じだ、例えこの部屋でもね」